(1)三貫堰地区

三貫堰川沿いに配置したトレンチ調査およびボーリング調査の結果を図4−9の地質断面図に示す。

ここで,トレンチ部のボーリング(BSA−3)では,深度約16mの孔底まで第四系の砂礫層が分布しているのに対し,東側のトレンチ底部では,基盤岩の相野々層の泥岩・シルト岩が観察できる。

相野々層の上面は,水平距離7m間で11m以上の標高差があり,仮にこれが不整合によるものだとすると,不整合面は約60゚以上の急傾斜となる。周辺の地質状況(図4−7美人山付近・図4−8中杉沢付近の地質状況)から類推すれば,この間に基盤岩と砂礫層の境界をなす断層が存在するものとみられる。 この断層を覆ってトレンチ下部に約2.9万年前に堆積した粘土・シルト層が分布している。この粘土・シルト層は,水平方向に圧縮されたような内部構造(狭在する砂層のうねり)を示すが,断層直上のトレンチの範囲では断層による剪断変位等は見られない。

トレンチの東隅で推定される断層の直上,粘土・シルト層は下位の砂礫層にアバットして急に薄くなっている。アバット面は高さ1.5m〜2.5m,傾斜約30゚で南北に連続している。したがってこの不整合面は崩壊して後退した断層崖の可能性があり,その場合は,粘土・シルト層の堆積の直前まで,この位置で断層が活動した可能性がある。 

トレンチ付近のボーリングBSA−3の深度約10m,標高59m付近にみられる腐植土層は西側の3孔のボーリングでよく追跡でき,約240m西側のBSA−6孔では深度約17m,標高50m付近に分布している(標高差約9m,平均勾配3.8/100)。 この腐植土層は砂礫層の間に挟まれていて,上位もしくは下位にシルトの薄層を挟んで葉理のある粘土層を伴っていることから,沼地の堆積物とみられる。

したがって,この腐植土層は本来はほぼ水平に堆積したもので,9mの標高差のほとんどは堆積後の断層変位によるものと考えられる。その場合,変位によって腐植土層が急になっているのは,国道13号近くの2孔のボーリングBSA−7とBSA−1付近である(約37m間で標高2.3m,平均勾配6.2/100)。このことより,この間で腐植土層は撓曲しているものと考えられる。

トレンチの下部で観察された約2.9万年前の粘土・シルト層(上面)は,BSA−4とBSA−1の80m間で標高差は1.3m(勾配1.5/100)であるのに対し,BSA−1とBSA−6の137m間で5.5mの標高差(勾配4.0/100)があり,この粘土・シルト層もBSA−1の西側は撓曲しているものと考えられる。この粘土・シルト層の上面は,トレンチとBSA−4の間で約2.2mの標高差があり,これも断層活動に伴う撓曲の結果とみられる。

粘土・シルト層の堆積時の勾配を1/100程度(BSA−1とBSA−4の間の平均勾配よりやや緩く見込む)と仮定すれば,この約2.9万年前に堆積した粘土・シルト層の変位量(上下方向)は,トレンチ付近で約2.2m,国道13号付近で約4.6m計6.8m程度と見込まれる。平均変位速度はほぼ0.2m/千年(計算上は0.23m/千年)となる。 

最近活動時期は約2.9万年前以降となるが,1回の活動で7m近い上下変位が発生したとは考えにくいので,2.9万年前以降,数度の活動があったものと考えられる。また,従来の断層変位は,トレンチ付近にあって剪断変位を生じるようなものであったが,2.9万年前以降は,地表付近では撓曲となって,トレンチ付近から国道13号付近に移動したものとみられる。下位の腐植土層と粘土・シルト層の間で,トレンチ付近では変位の累積がみられるのに対し,国道13号付近では変位の累積がみられない事からも,この付近の撓曲は,粘土・シルト層堆積(約2.9万年前)以降に生じたものと考えられる。

図4−9 三貫堰地区地質断面図