4−2−3 千屋断層に関する既存の研究結果

1896年に発生した陸羽地震による地震断層(千屋断層)については,これまで多くの調査研究が行われている。地震直後には,山崎(1896)が現地調査を行って千屋断層と川舟断層(千屋断層と同時に岩手県内にあらわれた地震断層)を記載・図示している(図4−2,山崎による千屋地震断層のスケッチ参照)。

Nakata.T(1976)は,陸羽地震による断層変位は山地と盆地の境界部の断層崖に残されており,一丈木面(T4段丘面)の推定形成年代から千屋断層系の平均変位速度を約1mm/年,陸羽地震と同規模の地震発生間隔を3,000〜4,000年と考えた。松田他(1980)は山崎(1896)を参照し,詳細な現地調査を行って,陸羽地震によって出現した5つの地震断層について5万分の1の地形図に示し,いずれも山地側が隆起する逆断層センスであるとした。さらに,各地震断層の性状を以下のように示している。

○生保内地震断層

 ・走向:約N30゚E,・最大上下変位量:東側隆起約2m 

○白岩地震断層

 ・全長約5km,・東側隆起2.0〜2.5m,・東傾斜逆断層

○太田地震断層

 ・主断層線長さ約3.5km,・東側隆起最大2.5m,・東傾斜逆断層 

○千屋地震断層

 ・全長約12km,・上下変位量約3.5m,

 ・水平短縮量約3mまたはそれ以上,・東側傾斜45゚〜20゚逆断層

○川舟地震断層

 ・岩手県側に出現した地震断層,・一般走向N45゚E,

 ・全長少なくとも6km,・西側隆起最大約2m,・西傾斜の逆断層

図4−2 千屋断層既往スケッチ(山崎;1896,より抜粋)

これらの結果から,陸羽地震による地震断層の性状を次の様にまとめている。

・全 長    : 約36km

・一般走向   : N20゚E〜NS

・最大上下変位量: 約3.5m

・最大水平短縮量: 3m以上

・横ずれ変位量 : 0m

また,陸羽地震時の断層変位量と沖積面の変位量の比較から沖積面形成以降,2回の地震活動があったことを指摘している。

平野(1984)は,白岩地震断層と千屋地震断層の断層露頭の観察に基づいて,陸羽地震で出現したこれらの変位様式は低角の衝上断層であるとした。また,変位を記録する地層または地形面の年代から,陸羽地震の1回前の地震発生時期は白岩地震断層で2,600年前以前,千屋地震断層で2,700〜4,400年前としている。

千屋断層研究グループ(1986)は,小森地区において千屋地震断層を横切って隣接する5つのトレンチを掘削し,地質構造の詳しい観察および放射性炭素同位体年代測定を実施し,この時点での千屋断層の活動履歴と逆断層の形態を示している。

以下に要約して示す。

@陸羽地震によって変位した2つの東傾斜の逆断層を確認し,それらの断層面の傾斜は概ね20゚以下である。また,地震発生当時使用中の水田の土壌が段丘礫層の下敷きになって埋没しているのが観察された。

A4回の断層運動が識別され,そのうち新しい2回の断層運動から再来間隔は約3,500年としている。

B断層の先端部において,断層の下盤側が地震以前は地表面であったことが確認された。断層の形態は固結岩中のそれとは異なり,上下盤とも未固結の地層であったことなどから,明瞭なセン断面を伴わずに,上下盤の境界面が様々な形態を示していると報告している。

今泉他(1989)は,千屋断層研究グループ(1986)が実施した小森地区の南方に位置する一丈木南地区において,トレンチ調査を実施している。以下に要約して示す。

@1896年に生じた地層断層の基部に断層を確認した。そこでは断層下盤の礫層並びに当時の水田土壌に対し,上盤の礫層や泥岩が衝上する形態を示している。

A断層の構造は小森地区のものと類似している。

B礫層先端部では断層面は水平に近い。

Cルーズな新しい礫層が古い礫層を傾斜不整合に覆うことから,陸羽地震以前にも古い礫層を変形させるイベントがあったと考えられる。

今泉他(1989)は,一丈木南地区および小森地区のトレンチを通る測線およびそれらの中間に設けた測線上においてボーリング調査を実施し,地下での断層の傾斜を把握した上で,平面図上の断層の湾曲について以下のように述べている。

@断層面は地表から地下に向かって,大局的に一定角度(20゚〜40゚)側に傾斜している。一方,平面上の断層線は,尾根前面および山地側において凸状に湾曲し,沢部において凹状になっているが,これは,断層の走向が場所によって異なるために生じたと考えられる。

A谷底では,同一地点の地下で傾斜のほぼ同じ3枚の逆断層が上下方向にほぼ等間隔に雁行配列をしており,断層の雁行により断層線がみかけ上湾曲している可能性もある。

米田他(1997)は,断層地表部の形態および過去2〜3万年間の平均変位速 度を検討する目的でボーリング調査等を実施し,以下のように述べている。

@千屋断層は東に約20゚の角度で傾斜している。

A変位速度(ネットスリップ)は次のように推定される。

 10,000年前以降・・・・・・・・1.4mm/年

 10,000年前以前・・・・・・・・1.0〜1.1/年程度

佐藤他(1998)は,大規模な反射法地震探査の結果から,千屋断層について以下のように報告している。

@断層は地表部では30゚程度で傾斜するが,地下では深度600m付近まで傾斜45゚程度であり,深部では緩傾斜となり地下800m程度でほぼ水平になっている。

A千屋断層の累積水平短縮量は約3.2km,断層の活動時期は240万年前以降であると推定している。