(5)データ解析結果

現地調査後のデータ解析を行い,真昼岳の直下までを含めて設定した総延長約20qの測線に対し,地下の地質構造形態を表した重合断面図,マイグレーション断面図,深度断面図,速度構造図等が得られた。この結果は,以下の通りである。

図2−2−7はタイムターム法と呼ばれる屈折波解析により求められた結果をまとめたものである。最上部は各受振点のタイムターム値を示したもので,低速度層(言い換えると,風化層)の厚いところで大きな正の値となっている。全体としては,30ms前後の値を有し,±15ms程度で変動している。中央部は表層の速度を1000mに仮定して求めた表層基底層の速度を示している。調査地域は表層基底層の速度から見て3つの地域に分類可能である。中央より西側では2000m/s,中央から東端に至る地域では2000〜3000m/sの中で徐々に変化し,東端部では3000m/sに達している。基底層の速度が徐々に変化する位置は,概ね千屋断層の位置に対応している。一番下に示したのは表層構造図であり,実標高と共に表層の厚さが示されている。表層の厚さは山岳部で若干薄くなっている傾向が見られる。

図2−2−8−1は処理の過程で得られた速度構造図である。図中に示した等速度線は重合速度(RMS速度)に基づくものである。この図には,測線の西側では2000m/s程度の現世の堆積物が地表付近に見られ,東側の真昼岳へ向かうに連れ急激に速度が増大していく様子が明瞭に示されている。また,極浅部の速度を見ると,表層基底層の速度の変化(図2−2−7)と良く対応している。図2−2−8−2図2−2−8−3は定速度重合法に基づく代表的な速度解析パネルの2つの例であり,反射イベントの出現の仕方が全く異なっている。既存の地質図や地表地質の観察結果によれば,この区間に断層の存在が確認されており,このパターンの違いはこれに起因していると考えられる。図2−2−8−4は4箇所の速度解析点における速度構造を時間に対して表示したものである。上のグラフはRMS速度を時間の関数として見たものであり,下のグラフは区間速度を時間の関数として見たものである。これらの図面からも,断層を境界として速度構造が急激に変化する様子が読み取れる。

図2−2−9はバイブロサイス震源による重合断面図であり,ランダムノイズや高周波ノイズを低減させるフィルターを施して8秒まで表示してある。この図では2秒から3秒付近まで比較的明瞭な反射波を認める事ができる。

図2−2−10−1は時間マイグレーション断面図で,重合断面図の中に見られる傾斜した構造は正しい位置に修正されると共に,回折波がなくなり,中央部より西側の浅部と中央部より東側の浅部から4〜5秒に至る領域の構造形態が明確化されている。

図2−2−10−2は時間マイグレーション断面図を振幅の大きさに応じてカラー表示したものである。この図においては,正の振幅を暖色系の色合い(赤,黄)で,又,負の振幅を寒色系の色合い(青)で表現した。カラー表示する事により構造形態がより明確になっている事が注目される。

図2−2−11−1は時間マイグレーション断面図を既に述べた速度構造に基づき深度領域に変換した深度断面図で,深度8qまでを表示してある。この図面の縦横比は1:1になっており,図面上での傾斜角は実際の傾斜角に対応する。

図2−2−11−2は時間マイグレーション後の深度断面図を振幅の大きさに応じてカラー表示したものである。この図の配色は,前出のものと同じであり,これにより多少なりとも解釈し易い断面となっている。

図2−2−12は時間マイグレーション断面図をベースとして,表層地質・地層の傾斜・表層構造・浅部の速度構造・ブーゲー重力異常に関する情報並びにSato et al.(1997)の解釈結果を参考にして佐藤委員が中心となり地質解釈を施した断面図である。図中の赤線は断層のトレースを意味し,灰色の線は大まかな地層境界を表わしている。図の上部には表層構造が地表地形と共に表示されている他,測線図との対応もなされている。更に,CDP2400,2475,2550,2700の位置に速度解析の結果得られたRMS速度の値をm/sの単位で記載してある。

本来我々が知りたい速度は区間速度であるが,当地域の様な構造変化の激しい所では,RMS速度からDixの式に基づいて算定した区間速度には大きな誤差を含む可能性が高い事から,RMS速度を目安の値として示すのに止めた。

図2−2−13−1は,本調査に引き続いて実施された大学の調査(平成9年度「人工地震による東北地方の地震探査に伴う観測等業務他」)の反射データを一緒にまとめて解析し得られた重合断面図で,振幅の大きさに応じてカラー表示してある。これらのデータの利用は東京大学のご好意により実現できたもので,後述する総合解釈作業の中で大変参考になった。

図2−2−13−2はダイナマイト発震データによる重合断面図で,振幅の大きさに応じてカラー表示してある。この図は,2〜3秒以浅の浅部構造解釈には利用価値が殆ど無いと考えられたが,4秒より深部の構造把握には有効である可能性があり参考までに作成した。しかしながら,この図面上にはイベントは比較的たくさん見られるものの有意な深部反射イベントを検出する事は困難であった。