(2)活断層調査における深部構造調査の意義

日本列島の島弧地殻内の地震は上部地殻に限定して発生している事は良く知られている。地殻の中で地震を発生させる領域は地震発生層と呼ばれ,その下限は地下15q程度と考えられている。1995年の兵庫県南部地震に代表される内陸地震は,地震発生層にある既存の断層に沿う滑りによって地殻内に蓄積された応力や歪みが解放される時に発生するもので,プレート境界型の所謂巨大地震に比べて規模は小さいものの都市部近郊で発生するため,局地的に甚大な被害を与える。島弧地殻における応力が,薄い上部地殻によって支えられている事から,内陸地震の発生メカニズムやそれに伴う被害を考える上で,地震発生層における弱面としての断層の形状を知る事が極めて重要である。地震の発生周期を特定する比較的近年の活断層の履歴に関しては,トレンチ調査やボーリング調査が有効である。

発生する地震の規模は,図2−1−1に示す様に,断層に沿って破壊される面積と地震の際に断層にそって岩盤が食い違う量(地震時の変位量)の積になる。規模の大きい内陸地震の際には,地表に地震断層が現れる場合が多く,断層の長さや地震時にどれだけずれ動いたか(地震時の変位量)については,通常の活断層調査(変動地形・地質学的調査,トレンチ調査,ボーリング調査)によって,必要な情報を得ることができる。しかしながら,断層の規模予測に必要な地震発生層における断層の傾きについては,こうした調査のみでは不充分である。地表もしくは地下浅層の断層の傾きは通常の調査でも明らかにできるが,地震発生層は東北地方の場合,10〜15qの深さであるため,その深度での断層の傾きは実際にはよく分かっていない。従来,起震断層の傾きは大きな内陸地震の余震を観測し,その分布によって推定されるだけであり,地震が発生する前に能動的に地下深部の断層の形状を知ろうとする調査はなされてこなかった。兵庫県南部地震の際の野島断層の例でも明かなように,活断層は繰り返し地震を発生しながら動いている。従って,地震を起こす断層は,地下構造を知ることによって,あらかじめ特定できる。つまり,内陸地震の発生前に将来動きうる断層の形状を特定することは,現在の科学技術で可能である。このように,内陸活断層の地下深部の構造を探ることは,地震によって破壊される領域を正確に見積もる事につながり,ひいては発生する地震の規模の正確な見積もりを可能にする。

さて,大規模な地震の場合,地表に地震断層が現れるのが一般的である。しかしながら,これは全ての大規模な地震について当てはまるわけではなく,中には地表に現れないものもある。こうした活断層を伏在活断層と呼んでいる(図2−1−2参照)。事実,1914年3月15日,秋田県西仙北町を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し,死者は94人に及んだ。しかしながら,この地震に伴う断層は地表には出現していない。現在一般に行われているトレンチ調査は,地表に現れている活断層を対象としたもので,こうした伏在活断層については,充分な調査がなされていない。また,こうした伏在活断層の評価方法そのものについても,充分に確立されたものではなく,研究段階にある。反射法による調査は,伏在活断層についても明らかにすることが可能である。伏在活断層の存在が明らかになれば,地形データや地表地質データとの関連性を調べる事により,それらのデータから伏在活断層を正確に評価する方法の開発へつながっていくものと期待される。本調査は,こうした伏在活断層の評価においても重要な地下構造探査法のフィジビリティスタディとしての側面も有している。

以上述べたように,深部構造調査は通常の活断層調査(トレンチ調査,ボーリング調査等)とは全く異なる側面を有する極めて有効な調査である。