(1)東郷町春木地区の変位量

@浅層反射法地震探査の解釈

東郷町春木地区で実施した浅層反射法地震探査の結果に対し、ボーリング調査の結果を考慮して作成した解釈断面図を図4−2に示す。

本探査結果の反射波のパターンは、始点側(北西側)の距離程500m付近まで反射面が不明瞭なゾーンが広がっているが、これは測定時にミニバイブロによる起振が伝播しにくい状況があったためであり、部分的に得られた反射面からは、水平ないし西に緩く傾斜する地層構造が読み取れる。

一方、距離程900m付近から終点側(南東側)では、幅300m前後にわたり地層が東方に急傾斜し、さらに終点側では地層はほぼ水平な構造となっている。したがって、この急傾斜部が矢田川累層の撓曲構造を示していると判断され、地表での踏査とも整合する結果が得られた。

また、距離程800m前後から終点側の表層部には、あまり反射面の明瞭でない地層が分布している。反射の状況から粗粒の堆積物と推定され、地表の状況や付近で実施したボーリングNo.1の結果より、主に段丘堆積物に対応すると考えられる。

図4−2の解釈断面図では、上記のような反射パターン、速度層分布及びボーリング結果から、地質構造及び構成層を推定して示した。断層は距離程900m付近から始まる撓曲のフロントの延長上に位置し、北西方に急傾斜する構造を示す。

また、速度の分布状況から、浅層のVp=2km/sec以下の速度値を示す部分は段丘堆積物と新第三紀鮮新世の矢田川累層に対応すると考えられる。これより大きい速度層は新第三紀の中新統に相当する部分と考えられる。始点側の速度値は相対的に低い層が深部まで分布しているが、これは起振時の伝播の不良による影響と考えられ、実際の地盤状況を示していない可能性が高い。また、この結果より本測線下での先新第三紀基盤(花崗岩あるいは美濃帯)の分布深度は確認できなかったと考えられる。

なお、この地域の矢田川累層の基底面は、小松他(1995)や桑原(1985)等によると、深度約300〜400mとされており、この解釈断面における中新統の分布深度は概ね妥当と考えられる。

図4−2 浅層反射法地震探査解釈断面図

A100mボーリングの地質学的区分

東郷町春木地区で行った100mボーリングをまとめて図4−3に示す。

図4−3 東郷町春木地区の100mボーリングの概要

B火山灰の対比と変位量

東郷町春木地区で実施した深度100mのボーリングNo.1地点では、矢田川累層の3層準(GL−20.9m〜GL−24.0m、GL−54.9m〜GL−58.11m、GL−66.2m〜GL−66.8m)で火山灰層が確認された。

この内、GL−56m前後に分布する火山灰層は、層厚1.5m程のガラス質火山灰を主体とし、火山灰分析ではガラスの屈折率がn=1.4984〜1.4995、平均1.4990の値が得られている。矢田川累層中に挟在される火山灰の中で、上記のような特徴に合致する火山灰として、日進部層中の丸根、東郷の両火山灰層が挙げられる。ただし、本火山灰層は火山灰質シルト状部分を含めた層厚が3.2mに達することから、本層は矢田川累層で最も厚い火山灰層である東郷火山灰に対比して良いと判断される。

この下位のGL−66.2m〜GL−66.8m間に分布する火山灰については、ガラスの含有量が少なく、分析によるデータは得られていない。ただし、中山(1987)や中山・古澤(1989)による火山灰層の記載を参考とすると、火山灰の層厚及び東郷火山灰層との層序的位置関係から、丸根火山灰に対比される可能性が高いと考えられる。

一方、最上位のGL−20.9m〜GL−24.0mに分布する火山灰層については、大部分がシルト・粘土状で、火山灰分析でもわずかにガラスが認められたのみであり、特に対比に有効となるデータは得られていない。本層について、活断層調査委員会委員の牧野内教授に意見を求めたところ、天神池火山灰の岩相に非常に類似しているとの意見を得た。天神池火山灰は常滑層群上部の布土累層に挟在される火山灰であり、中山・古澤(1989)では本層を矢田川累層中の滝ノ水火山灰に対比できるとしている(図4−4)。本層については、東郷火山灰との層序的位置も離れているため岩相以外に対比できる要素もなく、ここでは不確実ではあるが滝ノ水火山灰と仮定する。

図4−5には、以上の火山灰の対比と、地表踏査及び中山(1987)に示されている調査地周辺の火山灰の分布状況を基に、浅層反射法地震探査測線及びその周辺の模式地質断面図を作成して示した。

本断面図に示すように、中山(1987)による火山灰の分布状況によれば、調査地から2〜3km西方の地域では矢田川累層は極緩く西に傾斜するが、これより東方ではわずかに東に傾くようになる。さらに東方では、浅層反射方地震探査及びボーリング結果で示したように、急激に東傾斜する撓曲を挟んで、水平構造に変化している。

矢田川累層の一般的な地質構造は西〜南西方向に緩く傾斜するものであり、図4−5では最も東(左)側の部分がこの一般部に当たっている。この構造が東方に続くと仮定して、東郷火山灰の露頭位置及びボーリングNo.1地点での分布深度から変位量を求めると、撓曲による変位量は約100mと推定される。

図4−4 常滑層群と瀬戸層群の火山灰の対比(中山・古澤,1989)

図4−5 東海層群中の火山灰の対比と推定変位量