(3)壁面観察結果

掘削後は、壁面に現われた地層の詳細な観察を行うとともに、壁面の写真撮影を行った。図3−54に試掘壁面の全体写真を示す。また、壁面観察の際には1/20スケ―ルでスケッチを行い、この壁面スケッチを図3−55に示した。

試掘壁面では、ボーリング結果の表3−10で示した地層の内、暗灰色の粘土分が優勢なA、B層に相当する地層の分布は認められない。基盤はT(矢田川累層)及びGr(花崗岩)が断層面で接しており、基盤被覆層の一部が断層によって切断されている。図3−56の解釈図に示すように、ここでは基盤被覆層を断層によって切断されている層(a層)と、そうではない地層(b層)に区分した。

@花 崗 岩(Gr)

花崗岩は、壁面では距離程4.7m付近より西側に、上盤側の基盤として分布する。花崗岩上面は10cm前後の凹凸を伴うものの、標高152.8m前後で概ね水平面を形成している。

緑灰〜褐灰、上部は一部黄褐色を呈し、全体に粘土化が進んで軟質化している。断層面に近い距離程4.2〜4.7m間は砂状の破砕帯であり、部分的にわずかに岩組織を残している。

破砕帯以外の部分の花崗岩中には、幅1cm前後の粘土を挟在する破断面が多く認められる。これらは南北方向に優勢で、鉛直に近いものと西に傾斜するものが認められる。

A矢田川累層(T)

矢田川累層は、壁面では距離程4.7m付近より東側に、下盤側基盤として分布する。矢田川累層上面は、北西方向に約20度傾斜し、断層面近くでは傾斜が急になって幅1m程の浅い窪みが形成されている。

本層はφmax100mm、平均φ20〜30mmの半固結状の礫層を主体とし、断層面に近い位置では厚さ30cm程の砂層を挟在している。礫はチャート質円礫が優勢で、わずかに暗灰色のホルンフェルスを含有している。

矢田川累層構成層はほぼ南北方向の走向を示し、東方へ約55度の急傾斜を示す。本層中には主断層から派生した小断層が認められ、この小断層はN60゚E,50゚Nの走向・傾斜を示し、逆断層センスを示している。

Ba 層

a層は上記の矢田川累層上面の窪みの中に分布する地層で、幅1.5m,厚さは最大0.6m程である。

本層は不淘汰なチャート質礫及び砂を主体に構成され、中央には厚さ15cm程の腐植物を含有する粘土層を挟在している。基底面付近には、下位の矢田川累層に由来すると考えられるφmax70〜80mmのチャート質円礫が多く含有されている。

a層の堆積構造は、矢田川累層との不整合面とほぼ平行で、西方に20度前後傾斜している。ただし、断層面付近では粘土層は面に沿って捲れ上がって東傾斜となっており、基底付近の礫層も面と平行するように配列している。

Cb 層

b層はほぼ水平の堆積構造を示し、a層とは整合的に累重している。また、b層は花崗岩及び矢田川累層を不整合に被覆するが、矢田川累層の直上部では7度〜8度西方に傾斜した不整合の関係である。

本層は全体に黄褐〜淡褐色の砂層を主体とするが、標高153.5m付近より下部ではチャート礫を含む不淘汰な産状を示し、2層準に腐植物を含有する薄い粘土層を挟在している。この粘土層はいずれも連続性が不良で、断層の直上及びこの西側ではしばしば途切れた分布を示している。

標高153.5m付近から標高154m間では、下部に花崗岩質礫を多く含む層準があり、この上には細砂の偽礫や斜交葉理を伴うが層準が続いている。標高154mより上位では、本層は層厚10〜20cm程の粗砂と細砂が繰り返す単調な互層を形成している。

D断 層

試掘によって現れた断層面は、試掘壁面では東方に約75度の傾き、この傾斜側が下盤側である正断層的な構造を示している。ただし、試掘壁面手前の床掘りの部分では、断層面はN4゚E,84゚Wの走向・傾斜を示し、逆断層的に変化している。

なお、スケッチ等の作業終了後に、断層付近を壁面奥の方向に掘り込んで断層面の観察を行ったが、条痕は認められなかった。また、断層面付近に分布するa層中の礫の分布も観察したが、礫の配列に定方性は認められず、断層の真のずれの方向は確認できなかった。

E壁面の解釈

・花崗岩と東海層群矢田川累層が断層関係で接し、約0.7mの破砕帯が存在する。この破砕帯は、花崗岩と矢田川累層からなり、断層にほぼ並行に層状に挟み込まれており、花崗岩が延ばされて矢田川累層中に取り込まれている。また、層厚1cmの断層粘土が存在し、その方向はN4゚E,84゚W である。また、矢田川累層中の礫は、長径は方向が約65〜75度の急傾斜を示しており、これに挟まれる砂層も同様な急傾斜を示していることから、矢田川累層堆積以降に断層活動が起こったことを示している。。

・a層は、矢田川累層を不整合で覆い、断層に高角度で接している。地層は、断層に向かって20〜30度の勾配を示すが、断層近傍では、本層中に挟まれる粘土層が捲れあがるように変形していること、断層近傍のa層中の礫が、断層面に引きずられて断層面に沿って並んでいることなどから、a層の堆積以降に断層活動があった事は確実である。また、a層は少なくとも上下方向に0.5m以上変位していると推定される。

・b層は、花崗岩、a層、矢田川累層を不整合で覆っている。断層の直上には砂礫があるが、この砂礫の堆積構造は断層によって切られたり、礫の変位は認められない。また、これより上部の層準でも、地層を切った証拠は認められない。したがって、b層堆積以降、断層は活動していない。

以上の事実より、この試掘露頭で見られる断層は、a層堆積以後、b層堆積以前に少なくとも1回は活動した活断層であり、a層の変位と矢田川累層の変位の違いから、a層堆積以前にも繰り返し活動していたと推定される。

図3−54 試掘壁面全体写真

図3−55 試掘壁面 正斜投影スケッチ図(1:20)

図3−56 試掘壁面 解釈図(1:50)