(2)露頭記載

本報告書では代表的な露頭について記述する。

なお、踏査ルート及び本書に掲載した露頭写真の位置は、図3−22にまとめて示した。

猿投−境川断層沿いの地表踏査では、露頭で活断層と認定できるような断層露頭は確認されなかった。しかし、本断層沿いでは、基盤の花崗岩体と新第三紀の瀬戸層群構成層が接する断層露頭が数ヶ所で確認されたほか、新第三紀層の変形構造は広い範囲で認められた。

また、中位面から高位の段丘面分布域については、断層露頭を直接確認できなかったが、地形面の断層変位あるいは変形と考えられる地形が認められた。

@断層露頭

表3−4には、この調査で観察された断層露頭と、既存資料で示されている断層露頭について記した。

表3−4 猿投−境川断層沿いの代表的露頭

図3−22踏査ルートと露頭写真位置(1:50,000)

表3−5に示した断層露頭の内、No.6の三好町の露頭は唯一猿投−境川断層が第四系(三好層)を切っていることが確認されている露頭で、中山(1987)に記載され、岡田ほか(1997)で露頭写真(写真1)が示されている。ただし、この露頭は造成に伴う切土法面に現れたもので、現在は法面の保護工によって確認できない状態となっている。

森山(1985)によれば、本露頭の両側に見られる三好面は約23mの変位を受けている。ただし、この両側に見られる低位段丘面や沖積面に変位は認められず、この断層は少なくとも完新世には活動していないとみなされている。

写真1 露頭bU:三好町三好ヶ丘地区の断層露頭(岡田,1977より)

(極めて貴重な写真であるので、岡田先生から借用して掲載した。)

他地域の基盤の花崗岩と新第三紀の瀬戸層群とが接する断層でも、その周囲の低地部ではこれに連続するような変位地形は認められなかった。また、いずれも破砕帯の幅は数10cm〜1m前後程度であり、活動を繰り返した逆断層としては、小規模なものが多い。

写真2 露頭bP:藤岡町石畳地区の断層露頭

写真3  露頭bS:豊田市猿投神社東方の断層露頭(岡田,1977より)

(極めて貴重な写真であるので、岡田先生から借用して掲載した。)

A地層の変形

猿投−境川断層沿いの地域では、断層の下盤側を構成する地層には、断層運動の影響と考えられる地層の変形が広く認められる。

C品 野 層

本調査では、猿投−境川断層沿いでは品野層のまとまった分布域は認められないが、豊田市加納地区では、瀬戸陶土層の中に暗緑灰色の凝灰質泥岩・砂岩から成る本層が挟在されている露頭(写真4)が見られる。

ここでは、瀬戸陶土層が50度以上の急傾斜構造を示し、この中に断続的ではあるが瀬戸陶土層と調和的に凝灰質泥岩・砂岩が挟在されている。このような産状は、断層の引きずりによって品野層及び瀬戸陶土層が捲れ上がり、その際に品野層の一部が瀬戸陶土層の中に取り込まれたものと解釈される。

C瀬戸陶土層

本層も、猿投−境川断層沿いではまとまった分布域はなく、藤岡町深見地区(写真5)、豊田市猿投地区・加納地区・本徳地区・乙部地区・保見地区等で、断層の下盤側の狭長な範囲に分布が認められる。

瀬戸陶土層は、瀬戸市域等では数度以下の堆積構造を示すが、上記の位置では概ね30度以上、しばしば50度以上の高角度で分布している。本層の上位は矢田川累層によって被覆されているために地下の構造は不明であるが、後述の矢田川累層の構造から急傾斜部は断層沿いの極狭い範囲に限られると推定される。

写真4 豊田市加納地区の新第三系露頭

写真5 藤岡町深見地区の新第三系露頭

C矢田川累層

本層は、調査地北部の藤岡町飯野地区以北では断続的に分布するのみであるが、これより南西では、高根山撓曲を含めた猿投−境川断層沿いに広く分布している。

藤岡町飯野地区以北では、矢田川累層は断層の直近では30度〜40度の急傾斜を示すが、このような急傾斜帯の幅は狭く、明確には認められないこともあり、これより東方では10度以下の緩傾斜となっている。このような状況は、必ずしも断層の活動性を示しているのではなく、矢田川累層の分布厚が薄いことが大きく影響していると推定される。

一方、これより南部では、矢田川累層は下位の瀬戸陶土層とともに、幅数10m〜300m程度の急傾斜帯が連続的に認められ、豊田市本徳地区周辺では50度前後の大きな傾斜角を示している。この他の地域では概ね35度以下のことが多いが、三好町福谷地区(写真6)や東郷町春木地区等では45度前後の急傾斜層が認められる。

写真6 三好町福谷地区の矢田川累層の急傾斜部

B変位地形

断層露頭で触れたように、猿投−境川断層は最高位段丘面である三好面を変位させているが、この他に中位段丘面にも断層変位地形が認められる。

C最高位段丘面

三好面の変位地形は、猿投−境川断層沿いでは表3−5に示した三好町三好ヶ丘地区から東郷町諸輪地区付近に認められるが、この多くは人為的改変によって地形面の変位は不明瞭である。

ただし、三好町福谷地区から黒笹地区にかけての丘陵部では、三好面は開析は進んでいるものの人為的改変は少なく、地形の変位が比較的明瞭に残されている。ここでは、4本の尾根の各々で三好層や三好面の不連続が認められ、丘陵背面の高度からは断層による20mを超える地形変位があると推定される。

C中位段丘面

猿投−境川断層の北半部では、中位段丘面は極めて未発達であり、本地形面と推定される地形は藤岡町石畳地区でわずかに分布しているに過ぎない。しかし、この地形面は表3−4で露頭No.1として示した断層の延長線上に位置し、現地では地形面の不連続が確認できる(写真7)。ここでは、段丘面の開析が進み、かつ造成や道路の切り通しのために変位による崖地形は残されていないが、地形面の高度差は概略5〜6mはあると見積もれる。

一方、東郷町諸輪地区以南の猿投−境川断層南部及び高根撓曲沿いでは、上記のような段丘面が明瞭に不連続となるような箇所は認められないが、大府市に至るまで段丘面が大きく撓んでいる状況が断続的に多数見られる。西三河平野では、中位面の傾斜は一般には南西方に1%未満であるが、中位面の撓曲部と考えられる箇所は南東に5〜10%近い傾斜を示し、沖積面下に没している(写真8)。

写真7 藤岡町石畳地区の段丘地形

写真8 東郷町諸輪地区の中位段丘面の撓曲部