(4)花粉・珪藻分析

地層に含まれる微化石から、地層の時代と堆積環境を明らかにする。微化石としては、花粉、珪藻化石を用いる。化石の含有する割合の高い細粒堆積物(特に泥岩)が採取対象となる。

@花粉分析

花粉・胞子化石の抽出方法は、以下の手順で行った。

A.試料の調整

試料重量は、一般的に乾燥重量1〜2gを目安として、砂質のものは適宜分量を増やす。定量分析を行う時は、乾燥重量(g)あるいは容積(ml)をあらかじめ測定する。 本業務では、約15g秤量した試料を、塩酸処理により炭酸塩鉱物の除去を行ない、遠心分離法で水洗した。次に、フッ化水素酸処理により珪酸質の溶解と試料の泥化を行い、遠心分離法で水洗した。

B.処 理

試料の処理方法には、最も簡便なKOH法、広く利用されるアセトリシス法、重液を用いる比重選別法、無機物質を溶解するHF法、その他がある。

ここでは一般的な方法の概略を述べる。

・KOH法 

1)試料を遠沈管にとり、10%KOH法を加え、ガラス棒で攪拌する。

2)沸騰している湯煎器中で15〜20分加熱する。

3)遠沈して上澄液をすて、残渣に水を加え攪拌し、遠沈洗浄を数回繰り返す。

・HF法 

普通、KOH法やアセトリシス法と併用する。残渣をプラスチック製遠沈管に移し、25〜50%フッ化水素酸(HF)を加え、沸騰中に湯煎器内でシリカ質が溶解するまで反応させる。遠沈洗浄中は、フッ化水素酸は有毒ガスを出すので、ドラフト内でゴム手袋をつけて操作する。

本業務では、先ず重液(ZnBr2 比重 2.2)を用いて遠心分離法で鉱物質と有機物を分離させ、有機物を濃集し、遠心分離法で水洗した。この有機物残渣についてアセトリシス処理を行い植物遺体中のセルロースを加水分解し遠心分離法で水洗した。最後にKOH液処理により腐植酸の溶解を行ない、遠心分離法で十分に水洗した。

C.封入

一般的にはグリセリンまたはグリセリンゼリーで封入する。定量分析の場合は一定体積に調整し、マイクロピペットを用いて一定量を封入する。絶対花粉数の測定方法には体積法のほかに重量法、標識混入法がある。本業務では、よく攪拌した処理後の残渣をマイクロピペットで適量をとり、グリセリンで封入した。

D.検鏡

検鏡は、一般的に普通400〜600倍の倍率で行い、必要に応じて油浸レンズを用いる。1試料につき最低1枚のプレパラート全面を検鏡する。本業務では、プレパラートの全面を200〜600倍で走査し、その間に出現した全ての種類(Taxa)について同定した。

E.統計処理

分析結果の表示は樹木花粉数を基本数として、各植物群の出現を百分率で示した。

A 珪藻化石分析

珪藻は、単細胞の藻類で温度・塩分などには強い適応性を備えており、あらゆる環境に生育している。珪藻は、一般に水中に繁茂し、種毎に細かな棲み分けを行っている。しかし、生育の場は、いちがいに水中ばかりとも限らず、ある一群は、苔、土壌表層、木の幹の表面などに付着生育し、これらは陸生珪藻(小杉、1986)と呼ばれている。すなわち珪藻は、植物が生育できるような場所はもちろんのこと、光の届く所であれば高等植物以上に生育範囲は広いと言ってもよい。また、生育時の個体の数が多いため、現在の表層土壌中や地層中(火山岩・火成岩を除く堆積岩のみ)から珪藻の殻が化石として認められる場合が多い。

最近では、地層中から多くの珪藻化石が見いだされることと、各種類が様々な環境で棲み分けを行っていることに着目して、地層の時代および環境の解析に応用されるようになってきた。

A.試料の調整

湿重約10gの試料をビ−カ−に秤りとり、過酸化水素水と塩酸を加えて加熱しながら泥化物および有機物の分解・漂白を行なった。

B.処理

分散剤を加えて蒸留水を満たした状態で放置した後、上澄み液中に浮遊した粘土分を除去する操作を4〜5回繰り返した。次に、L字形管分離で砂質分の除去を行なった。

C.封入

検鏡し易い濃度に希釈したうえでカバ−ガラス上に滴下して乾燥させた。乾燥した試料上に封入剤のプリュウラックスを滴下してスライドガラスに貼り付け、永久プレパラ−トを作製した。

D.検鏡

検鏡は、油浸600倍または1000倍で行い、メカニカルステ−ジを用い任意に出現する珪藻化石が200個体以上になるまで同定・計数した。なお珪藻殻が半分以上破損したものについては同定・計数は行っていない。珪藻の同定と種の生態性については、Hustedt(1930〜1966)、Krammer & Lange−Bertalot(1986〜1991)、Desikachiary(1987)などを参考にした。

E.結果の表示方法

群集解析にあたり個々の産出化石は、まず塩分濃度に対する適応性により、海水生、海水〜汽水生、汽水生、淡水生に生態分類し、さらにその中の淡水生種は、塩分、pH、水の流動性の3適応性についても生態分類し表に示した。

堆積環境の変遷を考察するために珪藻化石が100個体以上検出された試料について珪藻化石群集変遷図を作成した。出現率は化石総数を基数とした百分率で表し、5%以上の出現率を示す分類群についてのみ表示した(図中の●印は、総数が100個体以上産出した試料うち1%以下の種を、○印は総数100個体未満の場合の産出を示す)。図中には、海水生・汽水生・淡水生種の相対頻度と淡水生種を基数とした塩分・pH・流水の相対頻度について図示した。

なお、珪藻は、一般には水域(水中)に生育するが、一部に好気的環境(直接大気に曝された環境)に生育種群が認められ、これらを陸生珪藻と呼んで区別している。本分析では、水生珪藻と陸生珪藻の区分を明確にし、それらの比率についても図に示した。なお、陸生珪藻は、伊藤・堀内(1991)の区分に従い、A群、B群およびその他の3つに区分している。

珪藻の各生態性(塩分・pH・流水)に対する適応性の詳細については、まとめて表に示した。