(4)空中写真判読結果

空中写真を判読した。その結果を付図2(付図2−1−1付図2−1−2付図2−2−1付図2−2−2)地形分類図に示した。

1)地形区分

調査地の地形の概要を図2−1−14に示した。

知多半島中・北部の骨格は、標高90m以下の小起状の丘陵帯によって形造られている。この丘陵帯は、名古屋市東方の猿投山西麓から南西方向に延びつつ、知多半島北部で南北方向に転じ、更に半島南端へと連なる隆起帯の一部である。

名古屋市大高から大府市街、及び東海市名和から加木屋町にかけては、北北西−南南東方向の直線的な谷地形が発達する。この2本の谷地形は常滑層群に発達する撓曲の延びる方向に一致し、それぞれ大高−大府断層(断層:撓曲の下位には断層が伏在)・加木屋撓曲(断層)と呼ばれている。この2本の谷地形を境界にして、丘陵は東部の尾張丘陵、中部の大府丘陵、更に西部の知多丘陵に分けられる。

大府丘陵及び知多丘陵とも、主部が固結度の低い常滑層群の砂・シルト・粘土層から構成されるため開析が進み、幅の狭い樹枝状の谷底低地が密に発達している。更に主要河流における開析は稜線にまで達しており、しばしば谷中分水界を形成している。そのうち最も顕著な谷中分水界は、大府丘陵と知多丘陵を直線状かつ北北西−南南東方向に画する谷地形に見られる。この谷中分水界の北方が加木屋断層に当たる。加木屋断層の延びの方向は常滑層群の撓曲の方向と一致するので、谷中分水界北方では構造谷と考えられる。しかし、谷中水界南方の阿久比川に沿っては、東海層群には顕著な撓曲は存在しない。一方、大府丘陵東縁もまた直線状かつ南北方向の形態を示すが、大府−大高の撓曲軸と斜交する。したがって、大府丘陵東縁の直線上の崖線の大部分は、境川の河川侵食によって形成されたものと考えられるが、後述の様にやや明瞭なリニアメントが認められるため、断層運動も関係していると考えられる。

谷中分水界は知多丘陵中・南部に良く発達している。ここでの谷地形は、ほぼ東西方向の延びを示し、知多丘陵中・南部をブロック状に幾つかの小丘陵に分割している。主稜線同様、谷中分水界の位置は西へ片寄り、分水界をなす河流の勾配は、相対的に東側で緩やかであり西側で急である。更に東西方向で見た丘陵の稜線の傾きも、東緩西急の方向である。このような地形的特徴は、大局的に見た知多丘陵中・南部の地質構造−すなわち常滑層群・武豊層(加木屋層)いづれもがほぼ東への同斜構造を示すことに良く対応している。特に神戸川以南の丘陵上部を構成する武豊層(加木屋層)は、ケスタ状の地形を形成している。

大府・知多丘陵を通じて最も高位にある地形面は、武豊面(松田,1969)と呼ばれ、加木屋層・武豊層上面に形成された定高性を示す丘陵背面である。

その構成層は主に礫からなる加木屋層・武豊層であり、主として大府・知多丘陵の北北西−南南東方向に延びる主稜線に沿って標高90m弱から40mの範囲の丘陵頂部に発達する。大府丘陵では主稜線が西側に片寄り、標高70mを超す独立標高点は、すべてこの主稜線に位置する。知多丘陵北部では主稜線は東側に、知多丘陵南部では逆に西側に偏在する。特に本宮山(標高86.3m)を始めとして、80mを超える独立標高点は、すべて知多丘陵南部の主稜線に位置する。このように武豊面の分布は、両丘陵を通じて特徴的な形態を示すが、大局的に見た場合、半島中軸部に形成された大きな複向斜構造(半田向斜)の軸部に向かって分布する傾向にある。

大府・知多丘陵周辺及び碧海台地には段丘面が発達し、台地地形を形成している。これら段丘面は河成ないし海成段丘面であり、知多半島では上位から亀崎・半田・岩滑・緒川面(松田,1969)に区分される。一方、碧海台地では碧海面(町田ほか,1962)が発達している。碧海面は半田面に対比されるので、本地域には4段の段丘面が発達することになる。 亀崎面は半田市亀崎に模式的に発達し、段丘面の開析はある程度進行している。一般に常滑層群からなる丘陵上部を浸食して段丘面が形成されているが、知多丘陵南部では武豊層を浸食して段丘面が形成されている。しかし知多丘陵南部では、段丘面は認定されるが堆積物を伴わない地域もある。沖積面との比高は、一般に20−50mである。

半田面は半田市街地域に模式的に分布し、知多半島の段丘面のうち最も広く発達し、その原面は比較的良く保存されている。半田面の標高は半島東岸では北から南へ、西岸では逆に南から北に漸次低くなる。沖積面との比高は、一般に5−10mである。

碧海面は碧海台地を形成し、その構成層は碧海層(町田ほか,1962)と呼ばれる。碧海層は海成層を伴い、衣浦港周辺では厚さ20m以上に達する(建設省・愛知県編,1965)。

本面は標高5−10mを示し、北から南へ極めて緩やかな勾配を持つ。

岩滑面は半田市岩滑において模式的に見られ、西岸では主に常滑市新舞子・矢田川流域に分布している。沖積面との比高は2−5m以下である。緒川面は東浦町緒川を始めとする境川右岸に模式的に分布するが、半島西岸での発達は極めて乏しい。沖積面との比高は1m以下である。

岩滑・緒川面ともその構成層は極めて薄く、段丘面のみが認定される地域が多い。以上の地形面は、武豊層が70万年より新しい地層である(牧野内,1975b)ことから、中期更新世から形成が始まったことになる。

高浜市や碧南市の分布する西三河平野は古い方から、藤岡面、三好面、挙母面、碧海面、越戸面の5段の地形面に分けられている。(町田ほか,1962)。藤岡面は尾張丘陵の標高60〜100mの丘陵背面で、鮮新統瀬戸層群矢田川累層の堆積面とされた。

最上位の三好面は、平野の北西部を占め、30〜120mの高度と約8/1000の勾配をもつ。その勾配は他の低位の地形面よりも急である。したがって三好面は下位の挙母面とは洲原池付近で交差し、挙母面下に埋没する。

挙母面は、西三河平野の北部に広がり、多くの開析谷に刻まれるが、開析の程度は三好面より進んでおらず、平坦面がよく保存されている。

表2−1−3 調査地周辺の段丘地形の対比

碧海面は標高3〜30mで沖積面との比高3〜10mの台地面をなし、緩やかに南西方向に傾く。碧海面は必従の開析谷によって放射状に切られる。標高10mまでの等高線はほぼ同心円状に走るが、油ヶ淵を含む北西−南東方向の谷以南や西尾ではやや高くなっている。

越戸面は豊田盆地よりも上流に分布し、勾配が急で沖積面下に没する。

低地は、境川−衣浦港両岸及び矢作川両岸と知多半島西岸に発達する。大府丘陵・知多丘陵・碧海台地を開析する小河流沿いでは、低地は谷底平野・氾濫平野などの河成低地から、河成低地の前面では海岸平野・三角州平野及び干拓地などの海岸低地からなる。しかし海岸低地の領域は狭く、海岸線からの距離1km以下のところがほとんどである。特に伊勢湾側の知多丘陵北部や常滑市大谷周辺では丘陵が海岸線にまで迫り、前者では比高30−40mに及ぶ旧海食崖が、後者では比高10mに達する海食崖が見られる。海岸低地は一般に0−4m程度の地盤高を有する。半島西岸及び衣浦港周辺では海岸線の方向に沿って平野部を閉塞するように砂州・砂堆列が並んでいる。そのほか、平野表層部の微地形として、自然堤防・旧河道が小規模ながら発達する。

衣浦地区の干拓地は、境川両岸の湿地帯や衣ヶ浦港湾の潮汐低地を利用して形成されたものである。干拓化は江戸時代以前にも徐々に進められていたが、明記な記録を持つのは江戸時代からであり(建設省・愛知県編,1965)、造成は1950年代まで活発に行われた。一方、埋立地は1960年代から始まった。臨海工業地帯の造成計画に基づくもので、衣浦港周辺のほか、知多市臨海部に造成されている。

表2−1−3に段丘面の対比を示す。

付図2(付図2−1−1付図2−1−2付図2−2−1付図2−2−2)の地形分類図では、半田地区と碧海地区の段丘面をを統一的に表現するため、段丘面を表2−1−3の左欄の低位段丘、中位段丘、上位段丘、高位段丘に区分して表現した。

2)変位地形

既存資料(地域地質研究報告 半田地域の地質 地質調査所等)では調査地の常滑層群の地層構造から撓曲軸が把握されている。これらの撓曲の下には伏在断層が推定されていたが、地表では確認されていない。今回縮尺1/10,000の空中写真を判読し、段丘面や沖積面を変位させている崖地形、活撓曲地形、傾動地形、リニアメント等を判読した(従来の縮尺1/40,000〜1/20,000の空中写真では段差1〜2mの段差地形は判読できない)。

<大高−大府断層>

境川の右岸(東側)を南北に連なる丘陵が、ほぼ常滑層群の撓曲構造を反映していると考えられる。南北に連なる丘陵部には明瞭なリニアメント等は認められない。

この境川と西側の丘陵地帯の境界の段丘を1〜2m変位させている箇所が連続して観察され、更に東浦町の緒川地区では段丘面が西に東浦町の南の石浜地区では段丘面が北に傾動している。また、東浦町の北部や大府市南部では沖積面を変位させている断層崖が観察される(図2−1−15参照)。このような沖積面を切る活断層が認められたのはこの箇所のみである。

<高浜撓曲崖>

碧海面と呼ばれる中位段丘面は、衣浦港の東側の南−北性の崖で約5mの高度差が見られる。この崖は高浜撓曲崖と考えられる。

<加木屋断層>

大田川から阿久比川の西側を丘陵の尾根が南北に連続し、知多半島道路交差部で尾根は南東に方向を転じ、阿久比川を横断し、阿久比川の左岸に延びる。阿久比川はこの尾根を下刻して横断する。阿久比川は、ほぼ直線的に南下する。

常滑層群の加木屋撓曲の東側の太田川や阿久比川沿いでは、丘陵と段丘面の境界や段丘面と沖積面の境界に活撓曲地形が認められる。段丘面や沖積面を切る明瞭な活断層は認められない。加木屋撓曲の南部の阿久比川東側にはリニアメントが認められる。

<阿久比撓曲>

撓曲に沿ってリニアメントが認められるが、段丘面や沖積面を明瞭に切る活断層は認められない。

<平井撓曲>

地質構造から推定される平井撓曲周辺には、リニアメント等は認められない。

<半田池撓曲>

地質構造から推定される平井撓曲周辺には、リニアメントは認められない。

<高根山撓曲>

段丘面が北側に傾動し、段丘面と沖積面の間に不明瞭なリニアメントがみられる。段丘面には段差が見られない。

なお、空中写真判読では、西三河平野にに広がる中位段丘の碧南台地には、台地を変位させる崖地形は油ヶ淵の西側の高浜撓曲崖以外には認められなかった。

また、調査地の変位地形は、垂直変位に伴うもので、水平方向の変位地形は認められなかった。