(4)埼玉県に被害を及ぼす地震及び地震活動の特徴

埼玉県に被害を及ぼす地震は、主に相模湾から房総半島南東沖にかけてのプレート境界付近で発生する地震と、陸域の様々な深さで発生する地震である。なお、埼玉県とその周辺で発生した主な被害地震は、図5−43のとおりである。

 相模湾から房総半島南東沖にかけてのプレート境界付近で発生する地震としては、例えば、1923年の関東地震(M7.9)で、県内のほぼ全域で震度5〜6の揺れとなり、死者・行方不明者411名などの被害{44}が生じた。

埼玉県の地形を見ると、県東部には関東平野が広がり、その西側の丘陵地を経て、県西部は関東山地の一部となっている。県内の主要な活断層としては、県北西部の群馬県境付近に活動度B級の逆断層である関東平野北西縁断層帯が北西−南東方向に延びている。また、比較的新しい地質時代(約2千数百万年前以降)の堆積物が厚く堆積している関東平野の下では、周囲の山地などから続く比較的古い時代の岩盤が大きな谷のような形をしており、この地下の谷は関東山地と足尾山地の間を通って北西−南東方向に延びている。この地下の谷の延長部分に当たる県南東部には{45}元荒川断層帯{86}、荒川断層と呼ばれる活断層が推定されている。{45}この二つの断層(帯)は、いずれも活動度C級{46}の逆断層と考えられている。さらに、関東平野の地下には、まだ未発見の活断層が存在する可能性があるが、地形の変形の度合いからは、A級の活動度を持つような活断層が存在する可能性は低い。{47}図5−44は、埼玉県の地形と主要な活断層を示したものである。

 陸域の浅いところで発生した被害地震としては、1931年の西埼玉地震(M6.9)がよく知られている。この地震により、県内の広い範囲で震度5程度の揺れとなり、県中部・北部の荒川・利根川沿いの地盤の軟らかい地域を中心に死者11名などの被害が生じた{48}この地震は、関東平野北西縁断層帯で発生した可能性がある{49}。また、遺跡調査などによると、818年の関東諸国の地震(M7.5以上)による可能性がある地割れや噴砂が、最近、埼玉県や群馬県の遺跡で見出されている。818年の地震と1649年の武蔵・下野の地震(M7.0)は、関東平野北西縁断層帯で発生した可能性があると指摘されている{50}

 また、荒川河口付近で発生した1855年の(安政)江戸地震(M6.9)は、陸域の浅い地震であったか、沈み込んだフィリピン海プレートに関係する陸域のやや深い地震であったか、はっきりしていない{51}が、県東部を中心に強い地震動が生じ、大きな被害が生じた。さらに、沈み込んだ太平洋プレートに関係する陸域の深い地震としては、(明治)東京地震と呼ばれる1894年の地震(M7.0)による被害が知られている。また、深さは分からないが、1791年の川越・蕨の地震(M6〜6.5)や1859年の岩槻の地震(M6)のようなM6程度の地震によっても局所的に被害が生じることがある。

 また、周辺地域で発生する地震や東海沖など太平洋側沖合で発生するプレート境界付近の地震によっても被害を受けることがある。

 なお、埼玉県とその周辺における小さな地震まで含めた最近の浅い地震活動を図5−45に示す。

表5−5 埼玉県に被害を及ぼした主な地震