(3)陸域で発生する地震

関東地方の陸域で発生する地震は、活断層などで発生する浅い地震(深さ0〜20km)、沈み込むフィリピン海プレートの上面や内部で発生するやや深い地震(深さ20〜50km)、沈み込む太平洋プレートの上面や内部で発生する深い地震(深さ50〜100km)に分けられる。このように、陸域の地下に、いくつもの地震活動域があることが、関東地方の特徴である(図5−9)。また、神奈川県西部から山梨県東部にかけての地域は、フィリピン海プレートと陸側のプレートの境界である相模トラフを陸上へ延長した地域にあたり、伊豆半島の衝突に伴う複雑な力によって地震が発生している。

1)陸域の浅い地震(深さ0〜20km)

 関東地方の地形を見ると、広大な関東平野が広がり、その周囲を関東山地などの山地や丘陵地が取り囲んでいる(図5−7)。

 関東地方の主要な活断層は、主に南部に分布している。特に房総半島南部、三浦半島南端、神奈川県西部に活動度の高い活断層(A〜B級)が比較的多く分布している。これらの活断層は、相模トラフから沈み込むフィリピン海プレートと密接に関係していると考えられ、相模トラフ沿いで発生するプレート間地震と連動して活動する可能性もある。{5}このうち最も活動度が高いのは、神奈川県西部に北西−南東方向に延びる活動度A級の神縄・国府津−松田断層帯である。この断層帯は、相模湾内の海底活断層に続くように延びている。房総半島南部、三浦半島南端の活断層帯についても、海域まで延びている可能性が高い。

 関東山地と関東平野の境には、関東平野北西縁断層帯や立川断層帯など、北西−南東方向に延びる活動度B〜C級の活断層がいくつか知られている。また、関東平野には、比較的新しい地質時代(約2千数百万年前以降)の堆積物が厚く堆積しており、その下には、周囲の山地などから続くそれより古い時代の地層(岩盤)が分布している。この岩盤の形状を見ると、大きな谷のような形をしており、その深さはところにより深さ4000mに達する。この地下の谷は、関東山地と足尾山地の間を通るように、北西−南東方向に延びている。この谷の延長上に、関東平野の中央部から東京湾沿岸にかけて、いくつかの活動度B〜C級{6}の活断層(荒川断層、東京湾北縁断層{85}など)が北西−南東方向に延びていると推定されている。これらの活断層は、比較的新しい地質時代の堆積物に覆われているが、最近の地下構造調査で、その形状などが明らかになりつつある。関東平野の地下には、まだ未発見の活断層が存在する可能性があるが、地表面の地形の変形の度合いからは、A級の活動度を持つような活断層が存在する可能性は低い。{7}また、関東地方北部は活断層の数は少ないものの栃木県北部に活動度A級の関谷断層がある。

 関東地方の活断層の延びている方向や活動様式を見ると、活断層にかかる力の向きは場所によって違っている。それは、関東地方の下に違う方向から沈み込むフィリピン海プレートと太平洋プレートの影響で、複雑な力を受けているためと考えられる。

陸域の浅いところで発生した被害地震としては、明治以降では、1931年の西埼玉地震(M6.9)や1949年の今市地震(M6.2とM6.4)などが知られている。さらにさかのぼると、818年の関東諸国の地震(M7.5以上)、878年の相模・武蔵の地震(M7.4)、1683年の日光付近の地震(M7.0)などが陸域の浅い地震と考えられている。これらの地震のうち、例えば、878年の相模・武蔵の地震は伊勢原断層{8}で、1638年の日光付近の地震は関谷断層{9}で、それぞれ発生した可能性が指摘されているが、全ての地震が知られている活断層帯と対応しているわけではない。また、M6程度の地震は活断層帯に限らず発生し、局所的に被害が生じることがある。なお、活断層の活動間隔の多くは千年以上なので、そこで発生した地震が知られていなくても、地震が発生しないということを示しているわけではない。

 なお、1855年の(安政)江戸地震(M6.9)については、地殻上部の断層が活動したとする考えと、フィリピン海プレートの上面で発生したとする考え{10}がある。

 また、栃木県の日光・足尾地域や伊豆諸島の周辺では、定常的に活発な地震活動が発生している。このような地震活動により、局所的に被害が生じることがある。

2)陸域のやや深い地震(深さ20〜50km)

 沈み込むフィリピン海プレートの上面で発生する地震としては、1968年の埼玉県中部の地震(M6.1、深さ約50km)や、二つある茨城県南西部の地震活動域のうち西側の活動域(図5−4図5−5のaの部分)で定常的に見られる活発な地震活動(深さ50km前後)が知られている。また、フィリピン海プレートの内部で発生した地震としては、房総半島九十九里浜付近で発生した1987年の地震(M6.7、深さ約50km:千葉県東方沖地震と呼ぶこともある)が知られている。

 なお、1855年の(安政)江戸地震(M6.9)については、地殻上部の断層が活動したとする考えと、フィリピン海プレートの上面で発生したとする考え{11}がある。

3)陸域の深い地震(深さ50〜100km)

 太平洋プレートの上面で発生する地震としては、二つある茨城県南西部の地震活動域のうち東側の活動域(図5−4図5−5のbの部分)で定常的に見られる活発な地震活動(深さ70km前後)が知られている。また、千葉県北西部では、太平洋プレートの上面から内部にかけて活発な地震活動(深さ80km前後)が見られる(図5−4図5−5のcの部分)。太平洋プレートの内部で発生した地震としては、最近では、1985年の茨城県南部の地震(M6.1、深さ78km)、1988年の東京都東部の地震(M6.0、深さ96km)、1992年の東京湾南部(浦賀水道付近)の地震(M5.9、深さ92km)などが知られている。また、(明治)東京地震と呼ばれる1894年の地震(M7.0)は、具体的な深さははっきりしないものの、関東地方の下に沈み込んだ太平洋プレートの内部で発生したと考えられている。{12}

4)神奈川県西部の地震(巻末の注1も参照)

 神奈川県西部から山梨県東部にかけての地域では、1633年の相模・駿河・伊豆の地震(M7.0)、1782年の相模・武蔵・甲斐の地震(M7)、1853年の小田原付近の地震(M6.7)などのM7程度の被害地震が繰り返し発生してきた。この地域のプレート構造は複雑なため、これらの地震がプレート間地震であったかプレート内地震であったかは、一概には判別できない。また、地表には、活動度A級の神縄・国府津−松田断層帯があり、地下のプレート境界との関係が指摘されている。

 最近の地震活動を見ると、丹沢山地から山梨県東部にかけての深さ10〜30kmでは、定常的に地震活動が活発で、たびたびM5〜6程度の地震が発生し、若干の被害が生じたことがある。

 なお、震源域が海域に及ぶ場合には、津波が発生する可能性がある。