(1)シークェンスモデルと最終氷期以降の海水準変動

沖積平野における更新世末〜完新統の堆積層は、最終氷期以降の海水準の上昇に伴って、形成されている。

一般に、シークェンス層序学における堆積モデル(Vail,1987など)は、海水準の昇降と関連付けて構築されており、沖積層の堆積体の形成過程を解釈する上で都合がよい。

実際、日本国内でも、増田(1992)、斎藤ほか(1995)、Saito(1995)ほかによって、すでに、沖積層(完新統)へ、シークェンスモデルが適用されており、“同時間面”を認定することで、堆積体の発達様式の検討が可能となっている。

大分平野においても、同様に、シークェンスモデルを適用することによって、基本的な堆積体の形成過程を把握することが可能となる。

以下にシークェンスモデルと最終氷期以降の海水準変動の概要について述べる。

シークェンスモデル(図5−2−6)では、海水準の昇降の各時期に形成される堆積体は、大きくは、.@高海水準期堆積体(HST)、A海進期堆積体(TST)、B低海水準期堆積体(LST)の3つに区分される。これらがセットとなって1つの“堆積シークェンス”となる。1つの“堆積シークェンス”の上下の境界面は、“不整合面およびそれに対比される整合面(SB:sequence boundary)”からなり、それより下位あるいは、上位のシークェンスと接する。さらに、海進期堆積体と低海水準期堆積体は、海進面(TS: transgressive surface)によって境され、高海水準期堆積体と海進期堆積体は海水準の昇降が最高位になった時、あるいは、海域が最も広がった時に形成される“最大海成氾濫面”(MFS:maximum flooding surface)によって境される。

1. 高海水準期堆積体(HST:highstannd systems tract)     

2. 海進期堆積体(TST:transgressive systems tract)       

3. 低海水準期堆積体(LST:lowstand systems tract)

最終氷期以降の海水準は、世界的にも、日本周辺においても、ほぼ、図5−2−5に示したカーブで変動したことが明らかにされている(Chapell and Shackleton,1986、Ota et al.1982、Saito,1994など)。この図に示したように、最終氷期以降の海水準は、約1万8千年前の最終氷期最盛期に、最も低下し、現在の海水準より100m以上低い位置にあった。その後、海水準は、急速に上昇し、いわゆる“縄文海進”として5千〜6千年前(暦年代で6千〜7千年前)ごろに、現在よりも2〜3m高い最高海水準に達している。5千年前以降は、ほぼ現在の海水準に落ち着いている。

大分平野でも、千田(1987)に、8千年前以降について、ほぼ、汎世界的な変動カーブとも調和的な海水準変動カーブが示されている。

大分平野をはじめ、日本の沖積平野では、海進のピーク時に、ほぼ一致する位置でK−Ah火山灰の降灰層準(14C年代で6,300yBP=暦年代で7,280yBP(福沢,1995))を見出せることが多いため、最大海成氾濫面(MFS)のおおよその位置は、容易に決めることができる。最大海成氾濫面(MFS)が決まることによって、沖積層内は、高海水準期堆積体と海進期堆積体の区分が可能となる。

図5−2−5 第四紀後期の海水準変動曲線

図5−2−8 府内城測線における堆積体区分(断層上り側:No.4孔)