(4)珪藻化石分析

珪藻は海、汽水、淡水と環境により生息種が異なり、堆積物中の珪藻化石を分析することにより堆積環境を推定することが可能である。唐比低地の堆積環境を推定する目的で珪藻化石分析を実施した。珪藻化石分析結果を表3−4−4および図3−4−8に示す。個々の産出種数については巻末資料に示した。また産出した珪藻種の生息環境の一覧表を表3−4−5に、生息環境別の産出数のグラフを図3−4−9−1図3−4−9−2に示す。

以下に下位から上位に向かい産出した珪藻化石の変遷を考察する。

1) 最下位の深度35.72〜32.05mは珪藻の産出が非常に少なくほとんど含まれない。しかし、産出するものは淡水生の珪藻が多く、異地性と考えられる海生珪藻の破片がわずかに確認される。淡水環境が推定される。

2) 深度31.6mでは珪藻殻数は多くはないが、泥質干潟指標種(小杉1988)のNitzschia triblionella が27%を占める。海生種全体は74%程度である。この地点では海域が及んで干潟が形成されたものと推測される。

3) 深度31.2mではFragiralia spp., Melosira gramulataなどの淡水生種とParalia sulcataやThalassionema nitzchioides などの海生〜汽水生種がそれぞれおよそ50%ずつを占める。海域に淡水域からの流れ込みが拡大したと考えられる。

4) 深度30.8〜29.6mまでは海水生の珪藻が80〜90%と優勢であり、内湾に多いとされるParalia sulcataや Thalassionema nitzshioides が優占する。海域が拡大して内湾化したと考えられる。

5) 深度29.2〜25.2mまでは海生種が70〜80%で割合は下位に比べてやや減少する。Paralia sulcataは減少し、 Thalassionema nitzshioidesは卓越する。また、低塩分を好み河口域に多いとされるCyclotella meneghiniana が10〜20%程度で急増する。海域の縮小もしくは停滞、それに伴う淡水の流れ込みの増加が推測される。

6) 深度24.99〜23.6mは珪藻の産出がない。

7) 深度22.0〜15.0mまでは砂層であり珪藻の産出が少ない。Cyclotella meneghinianaが30〜60%で、Fragiralia 属を主とする淡水生種が60%程度を占める。河口域のような水域環境が推測される。

8) 深度15.0〜14.4mの粘土層からは珪藻の産出は多くはないが、淡水に産出する珪藻群集である。

9) 深度14.0〜11.6mは海生種がやや増加し、深度11.6mでは60%を占める。海水の流入が再び増加したと考えられる。

10) 深度11.2mは淡水生珪藻が多く90%程度を占める。また海生種の産出は認められない。海水の影響を受けない淡水環境にあったと推測される。

11) 深度10.8〜10.0mはCyclotella meneghinianaが70%以上を占める。再び水域は河口のような汽水環境に推移したと考えられる。

12) 深度9.6〜8.8mでは海生〜汽水生種がやや増加する。河川下流域で海域の影響を受けやすい不安定な淡水域が推測される。

13) 深度8.38〜4.4mは淡水性の珪藻の割合が多くCyclotella meneghiniana がやや出現する。わずかに海水の影響を受ける淡水環境が推測される。

24) 深度3.6mより上部ではほぼ淡水生種のみとなり、海域の影響の及ばない淡水環境に推移したと考えられる。

珪藻化石の産出状況は層相と良い一致を示す。最下部−32.40〜−32.05mの泥炭では淡水種が、その後−25.20mまでの海成粘土では海棲種が主体となっている。

−26m〜−15mの砂層からは珪藻化石の産出が少ないが、砂層の下部では海棲種主体で上位に向かって汽水〜淡水種が増加する。

−15m以浅では−14.00m〜−11.60m間は徐々に海棲種が増加してくるが−11.20mで突然淡水環境となる。この時点で唐比低地と海が隔てられた可能性が考えられる。その後少量ながら海棲種も混じる環境が続き、−9.22mに海棲種が増加する。その後は汽水〜淡水へと環境が変化し、−6.80mで汽水種が増加する。その後は徐々に淡水化が進み現在に至る。

以上のような環境変化は、更新世末から完新世にかけての時期の海水準変動のみでは説明しきれず、唐比低地の海側のバリア(リッジ?)の形成や、海側が相対的に沈降する千々石断層の活動と関連している可能性が考えられる。