1−1 活断層の定義および活動性

一般に,活断層とは「約170万年前から現在までの第四紀という最近の地質時代に繰り返し活動し,将来も活動すると推定される断層」と定義されている.ただし,アメリカのカリフォルニア州にあるサンアンドレアス断層のように,常時活動している断層は日本では知られていない.

現段階では,活断層の認定において,空中写真の地形判読が最も重要な手法となっている(活断層研究会,1991).この場合,地形的に連続する線状模様,即ちリニアメントを抽出し,同時代にできたひと続きの地形面または地形線を基準として,それらがリニアメントの両側でくいちがっていることを確かめる.このような断層変位の有無を判断する基準となる変位基準地形としては,面状をなす基準地形面と線状をなす基準地形線がある.前者としては,段丘面・侵食小起伏面・火山斜面などがある.後者としては,旧汀線・段丘崖・河谷の谷筋・稜線などがある.日本列島では基準地形の形成年代は第四紀と考えられるので,基準地形がリニアメントを境にくいちがっていることが確かめられれば,そのリニアメントを活断層とみなすことができる.また,断層運動に伴う特有の断層変位地形(断層崖,低断層崖,逆向き低断層崖,撓曲崖,地溝,地塁,横ずれ尾根,横ずれ谷,閉塞丘など)が,地形的リニアメントに沿って認められるかどうかによって,活断層の認定を行うことも多い.

活断層の認定においては,基準地形の明瞭さや性質の確かさに応じて活断層の存在の確かさ,即ち確実度がT・U・Vに3区分されている(活断層研究会,1991).

確実度T:活断層であることが確実なもので,断層の位置・変位の向きがともに明確であるものをいう.数本以上にわたる尾根や谷の系統的な横ずれ,同一地形面を切る崖線,時代を異にする地形面群を切る崖線で古い地形面ほど変位が大きい場合,同一地形面での変形が認められる場合などである.

確実度U:活断層であると推定されるもので,位置・変位の向きも推定できるが,確実度Tと判定できる決定的な資料に欠けるもの.2〜3本程度以下の尾根や谷が横ずれを示す場合,断層崖と思われる地形の両側の変位基準地形が時代を異にする場合,明瞭な基準地形がない場合などである.

確実度V:活断層の可能性はあるが,変位の向きが不明であったり,他の原因(川や海の侵食による崖,あるいは断層に沿う侵食作用)によってリニアメントが形成された疑いが残るもの.

さらに,活断層の過去における活動の程度を活動度と呼ぶ.活動度は,認定に用いた基準地形や第四紀層の変位量を,その形成時から現在までの年数で除した平均変位速度(S)により,次のように4区分されている.単位は,m/1,000年,または m/kyrで表現される.平均変位速度は,地震の発生間隔や将来の地震活動を推定する重要な指標である.

活動度 AA:S = 〜10 m/kyr

活動度 A: S = 10〜 1 m/kyr

活動度 B: S = 1〜 0.1 m/kyr

活動度 C: S =0.1〜 0.01 m/kyr

北海道の活断層の概略的な調査は,活断層研究会(1991)によって行われており,道内では62断層が確実度Tに区分されている.また,これら62断層を活動度で分類すると,2断層が活動度A,38断層が活動度B,そして22断層が活動度Cと認定されている.

これら活断層の危険度を評価するためには,一回の活動で動く断層の長さと変位量,活動間隔,および最新活動時期を明らかにする必要がある.今後の調査によって各断層の分布位置がより詳細に特定され,地形・地質構造との関連など断層の性格を解明することができれば,過去の地震の震源位置や現在の微小地震の観測結果などを参考にすることによって,概略の地震発生地域を予測できる可能性がある.

松田(1975)によれば,断層線の長さL(km)と1回の地震に伴う断層変位量D(m)は,地震のマグニチュードMとの間に次のような統計的な関係をもっている.

log L=0.6 M−2.9                          (式1.1)

log D=0.6 M−4.0                          (式1.2)

地形地質調査やトレンチ調査から得られるLまたはDの値を,上式に代入することによってMの概略値を計算できる.

地形学的または地質学的に形成年代が明らかにされた地形面の変位量が測定できれば,断層運動の平均変位速度(S)を推定できる.従って,断層活動の一様継続性と一様反復性の考えに基づけば,断層が繰り返し活動する際の平均的な活動間隔(R)を,次の式により見積ることができる.

R = D / S                              (式1.3)

また,これらの式を組み合わせた次式により,Dが分からなくても,LとSから活動間隔Rを推定することができる.

R = 0.0794 L / S                           (式1.4)

さらに,トレンチ調査などにより,幾つかのイベント(地震)の活動時期から活動間隔と最新活動時期が特定できれば,次の地震までの時間の長さを予測できる.少なくとも最新活動時期が分かるだけでも,活断層の平均的活動間隔を適切に推定することによって,概略的で精度は良くないが,次の地震がいつ起こるか,あるいは現在という時間が次の地震までの期間のどのステージにあるかを推測できる.「いつ」という時間のファクタ−は,高い精度で求めることは困難と思われるが,長期的な防災対策を作成するにあって考慮すべき重要な項目である.