1−6 調査結果の概要

第1年次の調査として,地形地質調査,物理探査(反射法地震探査),およびボーリング調査を計画した.

石狩低地東縁断層帯は長さ60kmに達し,多くの断層より構成され,地形・地質的にいくつかのブロックにより構成されることから,前段の地形地質調査にあたっては,北部地域(岩見沢・栗沢),中部地域(長沼・千歳市泉郷)および南部地域(千歳市自衛隊駐屯地・早来町富岡)に分けて実施した.本断層帯は従来は5つの活断層(岩見沢断層・栗沢断層・泉郷断層・馬追断層・嶮淵断層)と活撓曲帯(中部地域の大部分)より構成されるとの報告がなされていたが(活断層研究会,1991),調査の結果では本断層帯の主要な構造は雁行状に配列したスラスト(衝上断層)群より構成されており,活断層群はスラスト群と対をなしてその西側に形成された西上がり東落ちの逆断層(バックスラスト)であることが判明した.北部地域の活断層系である岩見沢−栗沢断層は地形地質的には西への撓曲構造(主撓曲帯)を基本とし,それに付随する逆向低断層崖(狭義の岩見沢−栗沢断層)として認識できるが,このうち,栗沢断層については少なくとも5〜10万年前前後の堆積物(段丘)を5m前後変位させている露頭が数箇所存在しており,地層の変位状況が確認できた.岩見沢断層については,同断層が存在する岩見沢地域が市街地化して露頭条件が悪く,既存のボーリング資料を参考にして付近の地質構造などの解析を行ない,岩見沢地域が人口密集地であることなどを考慮して,反射法地震探査とボーリング調査によりさらに岩見沢断層を取り巻く地質構造と断層性状をさらに詳細に把握する必要があると判断した.中部地域のうち活撓曲帯については主として空中写真判読と既存ボーリング資料の解析から地形・地質構造の把握を行い,馬追丘陵西縁の台地全体が西に顕著に傾動していること,台地は主として2つの地形面(中位・高位)により構成されること,中位面(構成する地層のうち上部は低平な湿地に堆積した堆積物で6万年前頃の地層)は長沼市街付近で55mの垂直変位量があることが明らかになった.泉郷断層については既に北海道横断自動車道路(コムカラ峠)のトレンチ工事において活断層露頭が出現し,段丘堆積物を20m程の落差で切る東落ちの逆断層が観察され,表層部では恵庭a火山灰(1万数千年前)が1〜2m変位している様子も報告されていた(日下ほか,1996;岡,1998).今回,新たにいずみ学園付近でも小規模な活断層露頭を発見し,断層活動(地震)によるずれの発生とほぼ同時に正断層を伴う地滑りが発生していることを確認し,コムカラ峠の段丘堆積物は高位段丘に対応するものと認識が得られた.南部地域には地形の変位をともなう数列のリニアメント(馬追断層a,同b,嶮淵断層)が知られているが,このうち特に馬追断層aについては自衛隊駐屯地内およびフモンケ川沿い数箇所の露頭で泉郷断層と同様に断層活動によるずれの発生に起因した地滑り現象(階段状正断層群を伴う)が発生した様子が観察できた.さらに区分した地形面ごとに断層沿いに簡易測量を実施し,変位の累積性があることが明らかになった(馬追断層aで0.075m/1000年).また,フモンケ川が馬追断層を横断する部分では完新世の地形面が2面認められ,そのうち高位の面に1m程度の撓曲(逆向低断層崖)を検出した.

反射法地震探査は浅層反射法(P波)を岩見沢測線(岩見沢市街緑ケ丘の市道沿い,北西−南東方向)および早来測線1(早来町富岡の種苗管理センター農場北方の町道沿い,西南西−東北東方向)で1kmの長さで,極浅層反射法(S波)を泉郷測線(千歳市泉郷の信田温泉北方台地上,西南西−東北東方向)および早来測線2(町道フモンケ線沿い,南西−北東方向)で0.5kmの長さで実施した.その結果,岩見沢測線(浅層反射法)では標高−1,000m付近まで良好な反射面が得られ,第四系と新第三系が明瞭な斜交不整合関係をなしていることが明らかになり,西に45゚前後で傾斜する新第三系の岩見沢・川端層,追分層,峰延層の区分が反射パターンにより明確となった.さらに表層付近ではほぼ水平に分布する第四系中にリニアメント(逆向き低崖)に対応する反射構造が得られた.泉郷測線(極浅層反射法)では地表下60m付近まで明瞭な反射面が得られ,段丘堆積物と新第三系が明瞭な斜交不整合をなし,新第三系は西に急傾斜することが明らかになった.さらに,新第三系中に泉郷断層が層理方向にほぼ平行に存在し,段丘堆積物中の食い違い・層厚変化となって現れ,地表部の逆向き低崖に完全に一致することを確認できた.早来測線1(浅層反射法)では地表下150〜200m付近に明瞭な反射面が得られ,それ以深では顕著な反射面が得られなかった.このことの原因としては表層付近に厚く存在する第四系でにより地震波のエネルギーが大きく吸収されることまたは有意な反射境界が深部に存在しないことなどが考えられるが,このような部分は新第三系の軽舞層および萌別層に(西傾斜)相当することが周囲の地質状況から判断できる.上記の反射面はほぼ水平に分布する第四系と新第三系の境界と判断されるが,上位の第四系は測線の東端部では東急西緩の小さな隆起構造が認められ,これは地表部の逆向き低崖に完全に一致していることが明らかになり,隆起構造の東端に西傾斜の馬追断層aが想定できるとみなした.さらに,西に向かっては第四系はゆるく沈むが,西部でやや急傾斜に変化する部分があり,これは嶮淵断層に相当する撓曲構造と判断される.早来測線2(極浅層反射法)では地表下20〜30m付近に明瞭な反射面が得られたが,これは早来測線1と同様に新第三系と第四系の境界と判断される.上位を占める第四系は測線の中央部付近で顕著な隆起構造(東急西緩)を示している.この構造の内,東翼の急傾斜部は地表部の逆向き低崖と比較するとやや西にずれているが,それは低角逆断層が存在していると解釈される.第四系は厚さが20〜30mとみなされるが,反射パターンにより大きく3分できる.すなわち,上位より,表層付近に途切れ状に存在するパターンの明瞭な部分,パターンのやや不明瞭な部分,下部のパターンが明瞭で上記の隆起構造を明瞭に示す部分である.これらは周囲の地表地質状況から判断すると上位より,現河川沿いの沖積層,恵庭・支笏火山噴出物および段丘堆積物に対応している.

ボーリング調査は岩見沢断層の性状などの解明を目的として,岩見沢市街の日の出地区と緑ケ丘地区で実施した.日の出地区ではポントネ川が地表で逆向き低崖列として示されるリニアメントを横断しており,同川に沿った谷状の低地で群列ボーリング(5孔総深度130m)を行った.その結果,深度16〜27m付近以下は新第三系で,それより上位は第四系であり,表層の厚さ5m前後の部分より下位に地層の食い違い(東落ち)が検出された.これの位置は地表の逆向き低崖列に一致しているが,変位を示す地層の年代は緑ケ丘地区のボーリング結果との比較などから少なくとも10万年より古いと判断された.一方,緑ケ丘地区では最下位段丘面の逆向き低崖部分で群列ボーリング(4孔総深度115m)を行った.その結果,深度20m前後以下は新第三系で,それより上位に重なる第四系中には日の出地区のような顕著な地層の食い違いは検出できなかった.さらに,ここの第四系の上部にはToya火山灰が挟まれていることから,その時代は10万年前頃と判断される.このように,両地区で対照的なボーリング結果が示されたが,近接する両地区で岩見沢断層の活動が異なるとは考えにくいことから,同断層は少なくとも最近10万年間は顕著な活動はしていないと推察した.

以上の結果にもとづき総合的に判断した結果,調査2年次(平成11年度)には石狩低地東縁断層帯の中部地域(泉郷断層)および南部地域(馬追断層)を主な調査対象とすることにした.具体的には,泉郷断層について,恵庭a火山灰の噴火後の1万年前頃に発生したと推定される地震活動以降の最新活動の有無と時期などを明らかにすることを目的として,地形地質調査(精査)ボーリング調査およびピット調査を計画する.さらに,馬追断層について地形地質調査(精査),ボーリング調査およびトレンチ調査を計画する.なお,岩見沢断層については,最近10万年間において顕著な活動は生じていないと推察されるものの,一連の断層系である栗沢断層(バックスラスト)において, 14C年代測定で45,000年前を示す泥炭層に3m程度の変位か生じている事実があることなどから,10万年前頃以降の活動状況を調査する必要がある.そのため,当初は緑ケ丘地区でトレンチ調査を行うことも計画したが,平成10年度のボーリング調査では深さ数m程度のトレンチ調査では変位の検出は困難であると予想されることから,緑ケ丘地区において群列ボーリングをさらに延長させるなどの措置により対処することにしたい.