(1)柳ヶ瀬断層

栃ノ木峠以北から板取までの区間では、柳ヶ瀬断層は孫谷川の東側をやや明瞭なリニアメントとして現れ、わずかに東側隆起で、左横ずれが卓越している。同断層は約10万年前以前の地層を切り、破砕帯起源の地すべり岩塊に覆われる。同岩塊の形成以前に最新の活動があったが、その年代は特定できない。しかし、地すべり岩塊に覆われ、断層に接近する崖錐性堆積物には下位の中位段丘堆積物で見られるような断層変形は認められないこと、および断層の活動性を示唆するリニアメントが栃ノ木峠以南と比して不明瞭となることから、崖錐性堆積物の堆積(約10万年前)以降の断層の活動の存在は疑わしい。

文献を参考にすると、柳ヶ瀬断層の最近の活動は以下のように整理することができる。

・椿坂付近の地質調査所によるトレンチ調査(杉山他、1993,1994)では、断層の最新活 動時期は西暦1325年(正中2年)の地震に対応する可能性が指摘されている。

・椿坂峠北側のトレンチ調査(地質調査所、1998)では、約7,000年前のアカホヤ火山灰 降灰以降の断層変位は認められず、椿坂峠付近より北側の柳ヶ瀬断層は正中の 地震の際 に活動していない可能性が出てきたとされている。

・武藤他(1981)は椿坂峠北方の中河内付近で、柳ヶ瀬断層を直接覆って分布する 小扇状地 性堆積物は変位を受けていないとし、この堆積物から産出した木片 の年代を34,250年B.P.より古いと報告している。

以上のように、柳ヶ瀬断層南部では西暦1325年(正中2年)の地震の際に活動しているが、北部では変位が認められず、最新活動時期は椿坂峠北で約7,000年前、その北の中河内付近では約3万年よりも前、栃ノ木峠北の調査地点では約10万年よりも前である。また、リニアメントや断層変位地形も北部は南部に比べ、不明瞭であり、トレンチ調査等から得られた地質的証拠に基づく北部と南部との活動性の差異を反映していると言える。

このように、柳ヶ瀬断層は椿坂峠付近を境として北部と南部に区別でき、北部は南部に比べ活動的でなく、柳ヶ瀬断層全体が同時に活動するとは限らないことが明らかになった(図1−3)。