(1)三貫堰地区のトレンチ調査結果

三貫堰地区のトレンチで観察された地質層序を表3−4に示し,地質構造の概要を図3−47の断面図に示す。表3−4 三貫堰トレンチ層序表

トレンチの東端下部では,基盤岩である相野々層の泥岩(AN)を観察した。泥岩の層理は,NNE−SSWでほぼ鉛直であった。相野々層が観察されたことから,相野々層と更新統の境界に位置するとみられる金沢断層は,ボーリングBSA−3までの間すなわち,トレンチの範囲内(深部)にあることになる。

泥岩の上位には,厚さ約1.5mの砂礫層(LG−1)が分布している。

砂礫層は,緑色の安山岩礫を多量に含み,異種礫から構成されることから,横手川本川の堆積物と考えられる(三貫堰川上流に安山岩礫は分布しないため)。この砂礫層は,トレンチの東端から約5m西側で浸食されて最大傾斜45゚程度の急崖をなし,上位の褐色粘土シルト層に不整合に覆われている。

砂礫層の急崖部(崖)を覆う粘土層(CS)の上面は,深度3〜4mでほぼ水平であり,トレンチ内で連続している。

粘土シルト層の上位は,軽微な不整合で大小の粘土ブロックを含むチャネル構造の発達した砂礫層(LG−2)が覆っている。砂礫は緑色の安山岩礫を多量に含みLG−1同様に,横手川本川の堆積物と考えられる。

LG−2を不整合に覆いトレンチの上部に分布する砂礫層(UG−1,UG−2,UG−39も下位の砂礫層と同様に粘土ブロックを含み,チャネル構造がみられる。ただし,緑色の安山岩礫を含まないことから,三貫堤川の流路がこの付近に固定された以降の堆積物と考えられる。

この上位の砂礫層は,3区分される。

UG−1はトレンチの中央部に局所的に分布する。粗粒でよく締っている。UG−2は,主にトレンチの東部に分布し,やや細粒な礫を主体として締っている。UG−3は,腐植物を多く含む粘土層を挟在する。礫層は細粒でややルーズである。最上部は粘土層が多く地表面にほぼ平行であることから,T7段丘面(トレンチを掘削した面)の構成層とみられる。

トレンチ内の堆積物は,整然とした成層構造を示す部分は少く,様々な不規則な構造がみられる。いくつかの事例を図3−42に示す。

図3−43 三貫堰地区トレンチ(TSA−1)で確認された不規則な構造

これらの構造の成因は,

・河川の急速な浸食と堆積のくり返し

泥岩ブロックのとり込みと砂礫層のチャネル構造。

・強い地震動による地層の乱れ

溝層の褶曲・地層の膨縮・粘土層の引きちぎられ・片平な礫の直立,等によるものとみられるが一部(主に上部)には,明らかに地層が圧縮されたためとみられる粘土溝層の膨らみがあり,地層に圧縮の変形がかかったことを示している。

このトレンチの観察で判明したことの要点は,次のとおりである。

・粘土シルト層が連続して分布することから,明らかな断層変位はみられない。

・トレンチの一部は,圧縮変形をうけている。

ボーリングによりトレンチ位置に存在するとされた断層は,トレンチ下方にあって,粘土シルト層堆積以降は,この場所では剪断変形を生じていないことになる。最下位の砂礫層(LG−1)が作っている急崖が断層崖が浸食によって後退したものである可能性は残されている。圧縮変形の原因は特定できない。断層活動の影響も否定できないが,明らかな圧縮変形が浅部にあることから,隣接する地すべりの影響である可能性が高い。変形はT7段丘面(約2,000年前)形成以降にも生じている。

図3−44 三貫堰地区トレンチ全景

図3−45 三貫堰地区トレンチ壁面スケッチ(北側法面)

図3−46 三貫堰地区トレンチ壁面スケッチ(東側法面)

図3−47 三貫堰地区トレンチ壁面スケッチ(南東法面)

図3−48 三貫堰地区トレンチ壁面スケッチ(南側法面)

図3−49 三貫堰地区トレンチ地質断面図