(1)地形

(1)地形概要

調査地域は,横手盆地の東縁部にあたり,北から千畑町・六郷町・仙南村・横手市・平鹿町・増田町を経て稲川町に至る長さ約40km・幅約2〜4kmの範囲である。

調査地域の地形は,盆地底の平野と盆地縁の丘陵・山地とから構成されている。平野は主に主要河川とその支流の河成段丘と扇状地とからなり,山地との境界部では,大小の扇状地が発達している。

丘陵地は,全般に山地前面に分布し,分布規模は段丘面に比較し,小規模である。千畑町の千屋丘陵は,標高200m前後であり,横手市南部の安田から大屋沼・平鹿町馬鞍から増田町熊渕にかけての丘陵は標高100〜150mであり,いずれも山地に連続する。横手市北部の金沢中野および杉沢地域での丘陵は,山地から分離しており,扇状地中に(埋積されて)標高100m前後の島状(微高地)に点在する特徴がある。なお,稲川町以南の地域ではほとんど分布しない。

山地は,大小の河川浸食により,急峻な山腹斜面を形成し,山地標高は千屋丘陵背後地域において,標高400〜600m・横手市金沢仲野から大屋沼地域において標高200〜300m・平鹿町から増田町地域において300〜400m・稲川町地域において標高450〜700mであり,横手市東側の山地がやや低い傾向がある。また,稲川町以南地域において山地においては,平野(主に扇状地からなる)に直接面している。

構造運動に起因する変位地形は,主に山地と平野あるいは丘陵と平野の境界に沿って認められるほか,山地にも認められる。これら変位地形は,横手市街地より北部地域において明瞭であり,南部地域では不明瞭である。

付図1−1−1付図1−1−2付図1−1−3付図1−1−4付図1−1−5付図1−1−6付図1−1−7付図1−1−8に広域の段丘面区分図(1/25,000)を示す。

(2)段丘面区分

調査地域の段丘は,主要河川とその支流に沿って8段形成されており,分布標高・分布形態・現河床面からの比高・段丘面の連続性・開析の程度等から,「中位段丘」・「低位段丘」・「最低位段丘」に区分される。  段丘面区分及び形成年代については,横手川流域における中川ほか(1971)の詳細な報告があり,基本的にその区分・編年にならった臼田ほか(1976, 1977・1981)の報告がある。本調査の区分及び形成年代については,段丘面の認定に若干の相異はあるが,中川ほか(1971)・臼田ほか(1976・1977・1981)に準拠して,表1−2−1−2のように対比される。

表1−2−1−2 調査地域の段丘面対比表

@中位段丘

中位段丘は高標高に位置することから最も開析が進み,横手市以北に断片的な分布が認められる。段丘は2段に区分され,高位の面から順に中位段丘1(T1),中位段丘2(T2)と呼ぶ。

〔中位段丘1(T1)〕は,中川ほか(1971)の相野々高位段丘に相当する段丘であり,主に千屋丘陵に分布するほか,横手市杉沢から横手市街地南部の前郷付近に残丘として点在している。段丘面は表面もかなり凸凹に富んでおり,原面をわずかに残す程度に開析されている。千屋丘陵,横手市杉沢付近に位置するものは,傾動・曲隆等の変形が認められる。現在の土地利用は,耕作地,果樹園として利用されている。

〔中位段丘2(T2)〕は,中川ほか(1971)の相野々段丘に相当する段丘であり,中位段丘1より1段低く,そのT1の縁辺及び近傍のに分布するほか,横手市金沢本町,同杉沢,同市街南部の前郷付近に残丘として点在している。

段丘面は表面もかなり凸凹に富んでおり,原面をわずかに残す程度に開析されている。千屋丘陵,横手市金沢中野,同杉沢のものは傾動,曲隆等の変形が認められる。現在の土地利用は,畑地,果樹園としてに利用されている。

A低位段丘

低位段丘は,調査地域の河川沿いに断続して分布している。段丘は3段に区分され,高位の面から順に低位段丘3(T3),低位段丘4(T4),低位段丘5(T5)と呼ぶ。

[低位段丘3(T3)]は,中川ほか(1971)の相野々段丘あるいは,長瀞段丘に相当する段丘とされ,標高的に中位段丘2と後述の低位段丘4の間に位置する。主に横手川とその支流の吉沢川・杉沢川沿い,及び杉沢扇状地に広く分布するほか,北部の廚(くりや)川の山間地及び千屋丘陵には断片的に分布している。このうち,杉沢扇状地のものは分布形態から相対的に古い扇状地面の残丘と考えられるが,ここでは杉沢川の段丘面として扱った。段丘面は原面を残すものの,開析により断片的に面を残し,現在の土地利用は,畑地・果樹園として利用されている。

[低位段丘4(T4)]は,中川ほか(1971)の長瀞段丘に相当する段丘であり,千屋丘陵の赤倉川下流(一丈木溜池北岸付近)・善知鳥川下流沿い・杉沢扇状地・吉沢扇状地の国道より東側に分布し,横手川沿い及び支流の滝ノ沢の下流沿い及び成瀬川下流の亀田から真人にかけての地域においては,断片的に分布している。段丘面は,杉沢扇状地・吉沢扇状地に広範且つ連続して認められ,原面の保存が良く,現在は水田として利用されている。千屋丘陵の赤倉川下流(一丈木溜池北岸付近)や善知鳥川下流沿い・横手川支流の滝ノ沢下流沿い・成瀬川下流の増田町亀田から真人においては,原面を残すものの部分的に開析されており,分布形状は断片的であり,現在は畑地・果樹園に利用されている。

[低位段丘5(T5)]は,中川ほか(1971)の土淵段丘に相当する段丘であり,千屋丘陵の赤倉川沿い及び横手川及びその支流流域のほか,成瀬川下流及び皆瀬川流域に分布する。当段丘面の保存は良好であり,ほとんどが水田として利用されている。ただし,杉沢扇状地の中〜端部において主に国道より西側に分布するものは,原面を残すものの部分的に開析されており,多くが畑地・果樹園に利用されており,国道東側に比較して面の保存が悪い。なお,成瀬川下流の増田町真人から稲川町三又にかけて,下流(西)側に向かって現河床勾配よりやや急な傾斜を有し,成瀬川により形成された初成的な扇状地面あるいは平野側の相対的な沈降による傾動の可能性が考えられる。

B最低位段丘

最低位段丘は主要河川沿いに広く,且つ連続して分布している。段丘は3段に区分され,高位の面から順に最低位段丘6(T6)・最低位段丘7(T7)・最低位段丘8(T8)と呼ぶ。

[最低位段丘6(T6)]は,中川ほか(1971)の季原段丘に相当する段丘であり,千屋丘陵の善知鳥川沿いにおいては狭長に,横手川沿い及びその支流流域・成瀬川・皆瀬川沿いにおいては広く分布している。段丘面は開析等受けておらず,上位・下位との段丘崖も明瞭である。現在は主に水田として利用されている。このうち,横手市街地においては,旧国道沿いの中央町から鍛冶町にかけてほぼ北北西−南南東方向に延びるわずかな高まりが認められる。

[最低位段丘7(T7)]は,中川ほか(1971)の回立段丘に相当する段丘であり,横手川沿い及び成瀬川・皆瀬川沿いに広く分布している。山間部では現河道の蛇行部に断片的に分布している。

[最低位段丘8(T8)]は,現河床標高よりわずかに標高が高く,現河道の両岸に接して分布する。

(3)段丘面区分の問題点

@千屋丘陵の段丘面対比の問題点

千屋丘陵の段丘面区分は,善知鳥川及び赤倉川沿いに分布する段丘面について,現河道両側の面を最低位段丘8(T8)として認識し,比高・面の連続性・開析の程度等から区分し対比を行った。しかし,千屋丘陵の段丘は,断層運動により隆起の著しい地域にあることと,平野側の段丘(横手川や皆瀬川沿いの段丘)とは,大規模な扇状地を介し隔絶していることから,対比は難しい。例えば,千屋丘陵の最低位段丘8(T8)は,隆起量が著しいため平野側河川の最低位段丘8と平衡しておらず,現河床との比高が小さいことも考慮すると,現在も下刻侵食や氾濫の場にあって,現河床とほぼ同等の形成時期とも考えられる。このように,千屋丘陵の低位段丘及び最低位段丘は平野側の段丘より1段丘ずつ若い可能性があり,低位段丘3〜5はそれぞれ低位段丘4・5及び最低位段丘6に相当し,最低位段丘6〜8はそれぞれ最低位段丘7・8及び現河床に対比される可能性がある。

A横手市金沢中野から睦成にかけての段丘面区分の問題点

この地域の段丘面は,後述する詳細調査結果および次頁の現況から,下盤側と上盤側の両方に分布する低位段丘5面と最低位段丘6面については,今後の調査により段丘面区分が見直される可能性がある。

○金沢断層を境にして下盤側から上盤側に連続する段丘面が少ない

○上盤側に広く分布する低位段丘4(T4)が下盤側に分布しない

○段丘面全体にわたって年代測定を実施していない

○下盤側の沈降量が小さい

(4)扇状地

扇状地は,平野の東縁に沿う山地との境界に大小様々な規模で分布しており,盆地平野を構成する特徴の一つになっている。

扇状地の発達状況は,河川の数及び規模(集水面積の広さ)により規制され,地域的に扇状地の形状と規模に差異認められる。北部の千畑町や六郷町では半径5km以上のものから半径500m以下の小規模のものまでさまざま確認され発達がよく,中部の横手市では発達が悪い。南部の平鹿町から稲川町では半径1〜2kmのものが主体をなして分布している。規模的にみても,北部では半径5km以上の大規模なものと多数の小規模(半径500m前後以下)なものが,南部では半径1〜2kmの中規模なものが主体となっていている。

形成年代は,河成段丘との関係から,「古期扇状地」・「新期扇状地1・2・3」・「未区分扇状地」の5種に区分される。

[古期扇状地(F0)]は,南部の稲川町下宿に分布し,半径約1.5km・標高約150〜250mで,近傍扇状地より約50m程度は分布標高が高く,開析の進行により,面はわずかに残存するのみである。また,扇端には開析した小沢による新期の扇状地が形成されている。扇頂部は直線的な山腹急斜面(断層崖)に接しており,山腹を刻んだ小沢により形成された新期の未区分扇状地により覆われている。

[新期扇状地1(F1)]は,低位段丘5を覆うか,または扇端を最低位段丘6以後の段丘形成時に浸食されているもので,低位段丘5(T5)とほぼ同時期から最低位段丘6(T6)の形成以前に堆積したと考えられる。

[新期扇状地2(F2)]は,最低位段丘6(T6)を覆うか,扇端を最低位段丘7(T7)の形成時に浸食されているもので,最低位段丘6(T6)とほぼ同時期から最低位段丘7(T7)形成以前に堆積したと考えられる。

新期扇状地3(F3)は,最低位段丘7を覆うもので,最低位段丘7形成以降に形成されたと考えられる。

[未区分新期扇状地(F)]は,覆っている地形面が未詳あるいは最低位段丘8を覆っているもので,そのほとんどが小沢により形成されたものであり,規模が小さく,新鮮な面を残す特徴から最低位段丘8とほぼ同時かそれ以降に堆積したと考えられる。

北部の大規模な扇状地(北より一丈木扇状地,六郷扇状地)については,いずれも一部削剥されて最低位段丘7(T7)あるいは最低位段丘8(T8)が形成されていることから,少なくとも最低位段丘7以前に堆積したと考えられる。