(3)壁面観察結果

掘削後は、トレンチ北側壁面の距離程N1〜N25、南壁のS6〜S20の範囲で整形作業を行い、壁面に現われた地層の詳細な観察を行うとともに写真撮影を行った。図3−49には、トレンチの壁面の全体写真を示すが、このトレンチでは断層がなかったため、断層部分の拡大写真はない。また、壁面観察の際には1/50スケ―ルでスケッチを行ったが、本トレンチでは結果的には断層あるいは断層による地層の変位のいずれもが認められなかったため、壁面スケッチ図としては南側壁面のみを図3−50に示した。

トレンチ調査位置周辺に分布する地層は、ボーリング結果の表3−10で示したように、その層序及び性状から、盛土、被覆層のA〜C層、基盤のT層(矢田川累層)及びGr(花崗岩)に区分される。トレンチ壁面では、図3−51の解釈図に示すようにT層は認められず、先第四紀基盤は花崗岩Grのみから成っている。

@花 崗 岩(Gr)

花崗岩は、南側壁面ではトレンチの中央から西側の距離程S8付近の最下位に分布するが、北側に向かって徐々に深くなり、北側壁面には露出していない。

緑灰ないし一部黄褐色を呈する粗粒花崗岩から成り、全体に粘土化が進んで軟質化している。基盤上面は0.5m前後の凹凸を示しながら、平均17度程度のかなり急な勾配で東方に傾斜し、A層によって被覆されている。

また、花崗岩中には北北西−南南東あるいは東北東−西南西方向の節理あるいは小断層と考えられる剪断面は認められるが、断層近傍に見られるような破砕部は無く、風化軟質化はしているが岩組織が読みとれることから、この付近には断層は無いと結論した。

AA 層

A層は花崗岩を傾斜不整合で被覆し、第四系基底層として1m前後の層厚で分布している。

暗灰ないし一部黄褐色を呈し、全体的にはチャート礫を含有する不淘汰な粘土層を主体とし、部分的に砂分が優勢な層準を挟在する。S11付近より東側では薄く腐植物を挟在するようになり、基底付近には礫を多く含有している。

BB 層

東方に7度前後傾斜し、A層を整合的に被覆する。1m弱〜1.5m程の厚さで東方に向かってやや厚く分布している。

全体に暗灰を呈する部分が優勢で、やや粘土の優勢な砂・粘土の不明瞭な互層から構成される。S4付近から西側では、本層は下位のA層とともに黄褐色に変色しており、両者の境界は不明瞭となっている。

S11付近より東側では、基底付近に材化石を多く含み、粘土層中には細粒の腐植物を多く含む部分が薄層状に挟在されている。

CC 層

東方に向かって2度〜3度の緩い傾斜を示し、S2付近から西ではA層とアバットの関係を示す。一方、これより東側のB層と接する範囲では、C層はB層とは傾斜ないし平行不整合の関係を示し、この不整合面は鉄分が沈着して褐色の板状になった鬼板を呈する。また、一部チャネル状にB層を削り込み、このような位置では少量の湧水が常時認められた。

黄褐色の砂層を主体とし、薄いシルト層や細砂層と細互層状を呈する。砂層には平行ラミナ、一部斜交ラミナが発達する。基底付近及び中位には細粒の炭質物を少量含み、暗褐色を呈する細層が3層準挟在されている。

D盛 土

盛土の基底は東方に向かって緩く傾斜し、0.2〜1.5m程の厚さで分布しており、法肩付近のS10付近で最も厚くなっている。

不淘汰な砂、シルトの混合物から構成され、上部には少量の礫分を含有している。

E壁面の解釈

このトレンチでは、断層の存在は確認できなかった。

当初、極浅層反射法地震探査及びにより、ボーリングbSとbWの基盤の段差に断層を 推定した。壁面の観察の結果、ちょうどこの付近まで水平であった基盤岩(花崗岩)がこ の付近から急激に浅くなっており、これに這い上がるようにA層が不整合で覆い、さらに B層やC層がアバット不整合で接している。したがって、このトレンチ部分で推定された 断層は存在しないという結論を得た。

図3−49 トレンチ壁面全体写真

図3−50 トレンチ南側壁面 正斜投影スケッチ図

図3−51 トレンチ南側壁面 解釈図